研究課題/領域番号 |
17K04092
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
西阪 仰 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 教授 (80208173)
|
研究分担者 |
小宮 友根 東北学院大学, 経済学部, 准教授 (40714001)
須永 将史 立教大学, 社会学部, 助教 (90783457)
黒嶋 智美 玉川大学, 公私立大学の部局等, 助教 (50714002)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 相互行為 / 原発事故 / 避難からの帰還 / エスノメソドロジー / 会話分析 / 概念分析 |
研究実績の概要 |
2011年の原発事故直後一時全町で避難し,数年前に全町で避難が解除された町において,2016年より,住民たち自身により今後の町のあり方を議論する会合が,毎月開催されている.初期のころから,研究メンバーが毎回2名ずつ参加し,会合をビデオに収録してきた.2017年度も,毎月ビデオ撮影を行なった.この会の目的の1つは,地元の(帰還した)子どもたちに町のよさを知ってもらおうというところにある.そのため,子どものための山登り,川遊び,巣箱置きなどの行事を企画している.これらの行事にも参加しビデオ撮影を行なった(子どもが参加する行事に関しては,子ども本人と保護者より調査参加に対する書面による承諾を得ている).ビデオ撮影と並行しつつ,2016年度までに行なった(同じ町の)住民へのインタビューと合わせ,分析を行なった.2017年度には以下のことが見え始めている.とりわけ放射線など,「可能な心配事」として一般的に理解可能なトピックについて語るとき,住民たちは,自分の「立場」の組み換え(人口空間の仕切直し)を巧みに用いながら,その心配事の「可能性」を維持しつつ,その一方で,自分たちの生活・活動を「合理的」なものとして構成していく.すなわち,人口空間は,「住民」対「非住民」,「(小学生の)親」対「非親」,「若者」対「老年者」,「非専門家」対「専門家」という「立場」のペアにより,相互行為の展開に応じてそのつど仕切り直されていく.いずれも,(具体的にその住民がどういう人物であるかを知らなくとも)一般的に,「住民」「親」「若者」「非専門家」等に,特定の経験・知識の有無を帰属することができる.このように「人口空間の仕切」を巧みに組み替えながら,住民たちは,とりわけ地域の外から訪ねてきた人たちに,ときには住民として,ときには子を持つ親として,自分たちの生活や地域について合理的な主張を組み立てている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上の「研究実績の概要」欄に記したように,住民たちの自主的な会合を毎月(すべて)ビデオに収め,かつ,この会議のメンバーが企画する行事にも,研究メンバーの2名もしくは3名が同行し,そこでの(大人と子ども,大人どうし,子どもどうしのやりとりを)ビデオに収めた.膨大な量のデータが収集できた.9月よりデータ分析のための研究会を月に一回開催し,研究メンバー全員で,いくつかの(1つ1分ほどの)データ断片を,会話分析の手法により詳細に検討し,どのような分析的課題がありうるかを話し合った.そのなかで,空中放射線量等の「数値」を語ることの意味(すなわち,それだけでは意味をなさない「数値」が人工物としてどのような会話資源となるか),心配などの感情の(表出だけではなく)第三者への帰属がどのような会話資源となるか,といった論点が,分析的焦点として浮上してきた. 2017年7月には,オターバイン大学(アメリカ)で開催されたエスノメソドロジー・会話分析国際会議(IIEMCA 2017)で,Six Years After the Fukushima Nuclear Disasterという表題で,招待パネルを企画し,以前の知見も加え,研究メンバーで3つの研究報告を行なった(「研究成果」欄参照). 地域研究の視点から研究を強化するため,いわき明星大学の高木竜輔准教授が研究協力者として加わった.
|
今後の研究の推進方策 |
2018年度は,2017年度に引き続き,「研究実績の概要」欄に記した当該地域住民の会合のビデオ収録を継続する.また,2017年度と同様,データ分析検討会を,月例で持つ予定である.そこで,さらに様々な分析的トピックが発見されることを期したい. 2018年7月にラフバラ大学(イギリス)で開催予定の国際会話分析学会大会(ICCA 2018)では,研究分担者の黒嶋智美と連携研究者の早野薫が組織するパネルにおいて,研究メンバー4名が本研究と関連のある3つの研究報告を行ない,また西阪がディスカッサントを務める予定である(採択済み).これらの研究報告をもとに,論文を執筆し投稿できるよう,研究を進めたい.
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度末の調査予定が一部,最後まではっきりしない部分があったため,使い残しが生じた.また,年度末に大阪で開催された研究会への出張に支出予定だった分が,年度にまたがっての旅費となったため,2017年度予算で執行できなくなり,その分が次年度使用額となった.次年度使用額の一部については,2017年度に実施できなかった住民へのインタビューのための旅費等に使用したい.
|