研究課題/領域番号 |
17K04092
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
西阪 仰 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 教授 (80208173)
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研究分担者 |
小宮 友根 東北学院大学, 経済学部, 准教授 (40714001)
須永 将史 立教大学, 社会学部, 助教 (90783457)
黒嶋 智美 玉川大学, ELFセンター, 助教 (50714002)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 会話分析 / 原発事故 / 避難からの帰還 / 感情 |
研究実績の概要 |
2018年度は,昨年度に引き続き,2011年3月の原発爆発事故後に自治体全体で避難した地域における,避難解除後の住民の活動を定期的に記録する作業を行なった.とくに,小学生の子どもたちのために様々なイベントを企画する住民の自主組織の月例会議を毎回ビデオに収録するとともに,イベントの視察,イベントそのものにも同行し,そこでのやりとりをビデオ収録した.昨年度以前から収録しているものも含め,毎月定例の(会話分析の手法による)分析検討会を持ち,その成果の一部は,2018年7月の国際会話分析学会(ラフバラ・英)で発表された.また,同12月には,地域住民とともに,ワークショップを行ない,本研究によるこれまでの知見を地域住民に提示し,それに対し地域住民からフィードバックを得る機会を持つことができた.2018年度の知見には,次のものが含まれる.1) 月例会議において,地域住民らは提案を行なうとき,その提案を自身の多様な(住民であったり,父親であったり,夫であったりという)アイデンティティにもとづかせることにより,それを正当化していること,また,同意をしながらもどのアイデンティティのもとでやりとりがなされるかに関する不一致が残ることもあること,2) イベントの視察やイベントにおいて,「提案」などの行為の組立ては,その行為が一般的な知識にもとづくものか,いま見ているものにもとづくかによって変わること,3) 放射線量の「高い」「低い」という評価は,数値にのみ依存するのではなく,計画中のイベントについて,何がどのように語られるかに依存すること,4) 月例会議の非公式的性格のゆえに,会議での意思決定の基準は,しばしば決定とともにそのつど「指針」として定式化されること,などである.(いわき明星大学の高木竜輔准教授が研究協力者として加わり,地域社会学の観点から会話分析的知見の精緻化に貢献した.)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データの収集は,きわめて体系的に行なうことができた.また,国際学会でこの研究を中心に,パネルセッションを行なうことができた.このパネルは,研究分担者の黒嶋と早野が企画し,研究代表者の西阪が討論者を務めるという形を取った.一方,「相互行為における感情」という,広いテーマを設定することにより,とくに医療場面における相互行為の研究を行なっているブラジルおよびアメリカ合衆国の若い研究者にも参加を呼びかけ,有益な議論を行なうことができた.原発事故というコンテクストと,がん患者や妊婦を取り巻く環境の違いを明確にしつつ,不安の表明がどのような相互行為資源となっているのかについて,広い視点から検討することができた.また,成果の一部は,2019年度のアメリカ社会学会に応募するため,論文化することもできた(アメリカ社会学会では,研究発表の応募は20枚以上の論文による).研究代表者の西阪と,研究分担者の黒嶋,小宮による,計2つの報告が,アメリカ社会学会により採択されている.
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今後の研究の推進方策 |
定点観察的なデータ収集を行なっているため,膨大なデータが蓄積されており,2019年度(最終年度)は,データ分析を進めることにより,研究実績の概要において述べた今年度の知見をさらに掘り下げ,学術誌への論文投稿を行なっていく予定である.上述のとおり,2019年8月開催予定のアメリカ社会学会の年次大会において,本研究の成果にもとづく2つの研究発表が予定されている.この2つの発表は,それぞれ,研究実績の概要における1)と3)の知見にもとづくものである.1)の知見にもとづく発表では,(本研究の手法である)会話分析において,近年,「成員カテゴリー分析」として展開しつつある試み(参加者が何者としてその場に参加しているかということと,その場における行為の構成と知識の配分との関係を体系的に捉える試み),およびデオンティクス(義務関係)およびエピステミクス(知識関係)という表題のもとに展開されている試み(責任の配分および知識の配分と行為の構成との関係を体系的に捉える試み)と切り結び,独自な視点を提出することを目指す.3)の知見にもとづく発表では,これまで会話分析で気づかれていたがあまり展開されてこなかった「相互行為資源として数値」という論点を展開することで,「高い」「低い」という評価表現と数値との関係について掘り下げる予定である.また,研究代表者は,2019年7月開催予定の国際エスノメソドロジー・会話分析学会でも,本研究の成果にもとづく研究報告を行なう予定である(採択済み).こちらでは,他の研究の成果も織り交ぜながら,研究実績の概要の2)の知見を,掘り下げる予定である. そのほか新たな知見を得ることを目指すとともに,再度,調査先の住民とワークショップを行ないながら,分析から得られた知見を,どのように現場に戻していくかも検討したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は,定点観察を確実に行なえるよう,出張旅費を十分確保するために,機器などの購入を控え,その結果,多額の繰越金が出来した.2019年度は,一部老朽化した機器の新規購入のほか,これまで収集した膨大なデータを整理するためのアルバイトを雇用するとともに,可能であれば,海外から研究者を招聘し,最終的な分析結果を検討してもらう機会が得られればと考えている.
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