研究課題/領域番号 |
17K04093
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
仁平 典宏 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 准教授 (40422357)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 市民社会 / NPO / 社会運動 / ビジネスライク化 / 新自由主義 |
研究実績の概要 |
本課題の目的は、日本の市民社会組織の「ビジネスライク化」と呼ばれる変化に焦点を当てて、そのメカニズムや諸帰結を明らかにすることである。 本年度は、企業や助成団体への聞き取り調査については、コロナウイルスの感染拡大のために調査を断られるなど、十分に進まなかった。その代わりに、市民社会に関する言説分析を進めた。具体的には「NPO」に関する新聞記事のコーパスを用い、計量テキスト分析を行った。ビジネスライク化の仮説では、それらの言葉の強い連関を持つ言葉群が、政治・運動的なものから、経営・事業的なものへと、経年的に変化することが想定されているが、その妥当性をDictionary-based approachとCorrelational approachを併用しつつ検証した。分析の結果、仮説通りのトレンドが見いだされた。具体的には、1990年代から2010年代後半までの間に「運動」「政治」「市民」とコード化される記事は減少したが、「経営」に関する記事の割合は変わらなかった。また経営に関連して「不正」の関係する記事の割合は増加していた。このような変化がNPOに対する人々の不信感につながっている可能性について、計量データの二次分析によって、明らかにした。その知見の一端はNPO学会のシンポジウムで報告した他、論文にまとめ、NPO学会の学会誌である『ノンプロフィット・レビュー』に査読を経て掲載されることになった。 その他、前年に実施した「首都圏の市民活動団体に関する調査」の分析結果をNPO学会で報告した。さらに、東日本大震災の市民活動の経年変化に関する分析を日本社会学会で発表し、その知見が収録された共著書が出版された。オリンピックのビジネス化にボランティアが動員されるプロセスの分析を行った論文が収録された共著書も刊行された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
・コロナで調査が十分できなかった部分もあったが、新聞記事と計量データの二次データを用いて、市民社会の言説に関するビジネスライク化とその効果について分析し、学会報告及び査読誌に論文発表ができたことは、言説分析もプロジェクト全体の大きな柱をなすことを考えると、着実な進展だと考える。 ・他方で、予定していた助成団体に対する調査は、コロナによる調査環境の悪化のみならず、パイロットサーベイの結果、審査の内部基準は開示できないとするところが多く、断念せざるを得なかった。 ・以上の点から、やや遅れていると判断せざるをえない。
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今後の研究の推進方策 |
・上述のとおり、助成団体に対して選考基準を開示してもらう調査は困難であることがわかったため、方針を変える。具体的には、公益社団法人助成財団センターが所蔵している1995年以降の採択課題に関するデータ(約1000ケース)を用い、経年的に採択されやすい課題がどう変化してきたのか内容分析の手法によって明らかにしていきたい。その知見の一端は、関東社会学会において報告する予定である。 ・企業が市民社会にどう関与し、それがどう変化してきたかの検討もこれまで進んでいなかったが、2007年~2016年まで各企業がオンラインで公表してきたCSRレポート(現在2988)を収集し、分析可能なテキストファイルへの変換を進めてきた。これを計量テキスト分析の手法で分析し、ビジネスライク化との関係を探る。同時に、どのような企業がCSRにコミットメントしているのかを分析する上で、2020年度購入したCSRデータ2021年度版(東洋経済)を用いて分析する。以上を、教育社会学会において報告する。
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