研究課題/領域番号 |
17K04094
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
小林 多寿子 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (50198793)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 質的調査の成立 / 社会学者の自伝 / リサーチドキュメント / リサーチ・キャリア / 1950年代の社会調査 |
研究実績の概要 |
本研究は、戦後日本の社会調査の系譜のなかで1950年代60年代に質的調査がいかに試行され精錬されていったのか、その初期形成過程を社会学者の具体的な調査実践のなかに展開をみることで、質的調査の成立実態を知識社会学的・歴史社会学的に明らかにし、戦後期の社会調査史の書き換えをめざしている。実際の研究は、一.社会学者の自伝とリサーチドキュメント研究、二.1950年代60年代質的調査の展開研究という二段階の計画で臨んでいる。 第一段階は、(1)社会学者の自伝とリサーチキャリア調査として自伝的著作物の収集と精査によって研究活動を包括的に跡づけたうえで、(2)リサーチドキュメント調査とリ-スタディ調査で1950年代60年代に照準した現地再調査によって質的調査と知的生産実態を把握する。第二段階として(3)アーカイヴズ訪問調査を国内外で実施しドキュメント利用の可能性を学び、(4)1950年代60年代の質的調査の展開過程として当時の調査実践をとらえ、同時代の社会学者の自伝を検討し、戦後初期の質的調査の成立展開を明らかにする。 平成30年度は、昨年度の研究継続としてとくに(1)自伝とリサーチキャリア調査と、(2)リサーチドキュメント調査とリ-スタディ調査をおこなった。本研究では宗教社会学・家族社会学を牽引した森岡清美氏のリサーチキャリアについて自伝的著作物をもとに研究活動を跡づけているが、とくに1950年代60年代の調査活動に照準して、当時の調査実態と変容を確認するリ-スタディ調査を群馬県安中教会・島村教会調査および石川県町野町調査において実施した。また、第二段階の(3)アーカイヴズ調査として立教大学共生社会研究センターや東京大学社会調査・データアーカイブ研究センター、京都大学研究資源アーカイブ、アメリカ合衆国では全米日系アメリカ人博物館やワシントン大学図書館等を訪問調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の研究実施計画では、第一段階「社会学者の自伝とリサーチドキュメント研究」を継続し、第二段階として(3)アーカイヴズ訪問調査および(4)1950年代60年代の質的調査の生成過程をとらえ、同時代の社会学者の自伝を検討し、戦後初期の質的調査の成立展開を明らかにするという二つの調査を計画していたが、いずれも予定通り着手し、研究は積極的に推進されている。(1)自伝とリサーチキャリア研究と(2)リサーチドキュメント調査およびリ-スタディ調査は、森岡清美氏と桜井厚氏に研究協力者として調査研究に加わってもらえたことによって積極的に推進することができ、研究は全体として順調に進展している。 平成30年度は、アーカイヴ訪問調査についても国内外で取り組むことができ、研究計画は着実に実行されている。具体的には、鶴見良行文庫のある立教大学共生社会研究センターや東京大学社会科学研究所社会調査・データアーカイブ研究センター、京都大学研究資源アーカイヴ、アメリカでのアーカイヴズ等、訪問調査を実施し、アーカイヴ化の実際について多くを学んでいる。 平成29年度から取り組んでいる「自伝とリサーチキャリア調査」では、公刊された自伝以外にこれまで森岡清美氏が折々にまとめてきた私家版の自伝的著作物も恵贈されたので、時系列でリサーチキャリアと調査実践をとらえる研究に本格的に取り組んでいる。とくに初期研究キャリア形成期である1950年代60年代の調査研究活動に照準して森岡氏へのインタビュー調査も実施し、かつて現地調査活動で産出された第一次資料や調査票、調査ノート等を含む資料群であるリサーチドキュメントを探索して研究を進めている。平成30年度は、1950年代60年代の調査実践例として能登調査や群馬県安中教会調査や島村教会調査に着目し、現地訪問調査によって当時の調査実態と変容を確認するリ-スタディに取り組んだ。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、平成29年度・30年度に取り組んだ「社会学者自伝とリサーチキャリア調査」および「リサーチドキュメント調査とリ-スタディ調査」の補足調査をおこないつつアーカイヴ調査を継続し、さらに「1950年代60年代の質的社会調査の展開過程調査」に注力する。リサーチドキュメント調査とリ-スタディ調査では、平成29年度30年度に実施した能登調査や群馬県教会調査の再訪調査に加えて、農村地域調査や農村婦人生活調査もとりあげ、リサーチドキュメントの精査と現地再調査によって当時の調査実態と変容を確認するリ-スタディを実施する。とくに当時の調査法を跡づけ、調査記録の方法や独自の第一次資料の活用の詳細を明らかにするとともに、調査の展開を再訪調査によって確認したい。 1950年代60年代の質的調査の展開過程研究として、当時の社会学研究の状況と調査実践の時代的背景を明らかにする。さらに戦後の占領期GHQ民間情報教育局CIEで実証研究に携わった社会学者たちがアメリカの社会学者らと協力して実施した社会調査でアメリカの調査法導入がいかになされたか、彼らとの共同調査の実践をとらえ、当時の時代状況を踏まえた1950年代60年代の調査活動を、戦前期の農村社会調査の批判的継承、大学教育での社会学の制度化、占領期のアメリカ社会学の影響、九学会連合共同研究や労働省調査など共同調査の実施という軸で、森岡の初期調査の具体的な調査実践の考察も踏まえて検討し、質的調査の成立展開の実際を精査する。とくに同時代の社会学者たちのあらわした自伝の研究、1950年代60年代に刊行された社会調査テキストの分析による社会調査教育実態と量的調査×質的調査の分化状況を把握したうえで、質的調査の成立展開を明らかにする。社会学者のリサーチキャリアの実際と質的調査展開の特徴をまとめた研究成果を発信をする準備に取り組む計画である。
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