研究課題/領域番号 |
17K04096
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
吉田 崇 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (80455774)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 学歴 / 収益率 / 初期キャリア / 労働市場 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、1990年代以降の大学進学率上昇を受けて、学歴の収益構造がどのように変化したのかを解明することである。高学歴化による大卒者の供給増加は、大卒求人倍率をみる限り旺盛な需要に支えられたとは考えにくいため、希少性の低下によって収益率が悪化することや、学歴内の分散(格差)の増大を予想させる。 本年度はこの課題を、社会学者が中心となって1955年から継続している「社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)」の個票データを用いて解明することを試みた。最近30年以上の動向を捉えるために1985年から2015年までの4時点のSSM調査を用いて、初期キャリアにおける学歴の職業的、階級的、および経済的収益とその時点変化について検討した結果、学歴と初職の職業の関連は全般的に安定している一方、学歴と非正規雇用就業との関連については男女差が見られることが分かった。また、所得については、高卒・大卒間の所得格差は拡大傾向にあるが、これは高卒の所得低下によって引き起こされており、ミンサー型の所得関数の推定から、学歴の収益率は4時点で安定しており趨勢的な低下傾向は示されなかった。以上のことから、高学歴化によって大卒者の供給は増加したが、それに伴う大卒の有利さや収益率は安定的であることが改めて確認された。以上の分析結果は、第90回日本社会学会大会(於:東京大学)で「「期キャリアにおける学歴収益率の時点変化」として報告するとともに、2015年SSM調査研究プロジェクトの研究報告書に「初期キャリアにおける学歴収益の時点変化についての検討」(第3巻『社会移動・健康』所収)として報告した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画である「社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)」および「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)」を用いた分析については、SSM調査を用いた学歴と職業との連関および学歴収益率の推定とその時点変化に関して、ほぼ計画通りに分析を進めることができ、その結果を学会報告や研究報告書にまとめることができた。そこでは、1985年から2015年までの4時点のSSM調査を用いて、初期キャリアにおける学歴の職業的および経済的収益について分析した結果、学歴と初職の職業の関連は全般的に安定しており、所得については所得関数の推定から学歴の収益率は4時点で安定しているが、高卒の所得低下により高卒・大卒間の所得格差の拡大が引き起こされていることを明らかにし、高学歴化によって大卒者の供給は増加したがそれに伴う大卒の有利さや収益率は安定的であることが改めて確認された。また、「就業構造基本調査」を用いた分析に関しても、二次分析研究会を通じて利用申請を行い、非正規就業や転職経験という初期キャリアのモビリティが所得にもたらす帰結を分析し、転職回数が増えるほど所得が低いこと、初職の非正規の不利は必ずしも持続的でないことなどを成果報告会で報告した。
|
今後の研究の推進方策 |
1年目には学歴の収益率の長期にわたる安定性について確認できた。一方で、収益率は平均像を示したものであるため、内部の格差について更なる検討を行っていく必要がある。2年目には、学歴間格差の分析に加えて、学歴内格差について、学校歴(大学名)の情報を利用した分析を予定している。SSM調査およびJLPSを用いて学歴内格差とその変化についての分析を行う。SSMとJLPSは学校歴(学校名)という他の調査では得られない貴重な情報があるためこれを利用し、これまでに考案されたいくつかの学校類型区分を作成し、学校ランク等による格差について検討する。また、分位点回帰分析や分散関数回帰分析といった方法を応用し、伝統的なMincer型所得関数では検討することのできなかった分布の位置における効果の違いやグループ内の格差についても検討を行う。また、就業構造基本調査については、現職職業の詳細な情報および初職移行の情報を手掛かりに、学歴、職業、およびキャリアパターンによる所得格差について分析を行う。
|