研究実績の概要 |
福祉スティグマ、すなわち福祉手当を受給する貧困層に付与される恥辱感について、イギリスやアメリカなど先進諸国における現代の事例を比較検討するとともに、各国の救貧行政にはじまるその歴史を探究することによって、スティグマ付与を促進する原因と考えられる、メディア上の言説および政策パターンの特徴を析出するという研究を行った。 具体的には、保守系大衆メディアにおける貧困層への侮蔑的言説について、イギリスのタブロイド紙、すなわちThe Sun, Daily Mail, Daily Express紙上の記事を系統的に調べる作業を行った。とくに、福祉受給者について報道するさい、たかり屋(scrounger)、仕事嫌い(work-shy)、無気力(feckless)、寄生(parasite)、怠け者(lazy)といった侮蔑的表現が用いられる事例について、検討を行った。その上で、それらと福祉政策を主導する政治家の言説、それを批判する言説との相互関係について考察を行った。その際、主としてイギリスで行われた大規模調査の結果を参照した。その際、とくにImogen Tyler、Paul Michael Garrett、Ruth Patrick、Ben Baumberg、Kayleigh Garthwaiteなど現代イギリスの福祉研究者の所説を検討した。 また、首都大学東京の研究者を中心とする「貧困と世論」研究会に参加し、日本における生活保護受給者バッシングの現状について討議を行うとともに、貧困問題を取り上げたドキュメンタリー番組の制作者にインタビューを行い、貧困報道の難しさについて意見交換を重ねた。その成果は、すでに行われた第13回日独社会科学学会大会の記録を改稿する形で公表した。
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