研究課題/領域番号 |
17K04107
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
樽本 英樹 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (50271705)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 国際移民 / 外国人 / 移民政策 / 市民権 / リベラル化 |
研究実績の概要 |
国際移民の市民権のリベラル化を考察するために、今年度は3つのトピックを取り上げて検討していった。 第1に重国籍である。各国は重国籍に寛容になっていく傾向にあるものの、寛容とは言えない国も存在する。なぜこのような相違が生まれているのだろうか。この問いに答えるために英国に焦点を当てた。英国は重国籍にきわめて寛容な国である。その最も大きな理由は、英国が帝国という過去を持っており、現在においてもその政治的枠組みが残っているからである。しかし一方、移民の流入およびそれに伴う諸問題により、寛容性にはゆらぎが出てきており、間接的に重国籍を制限する帰結も見られる。 第2に、移民の市民権を制限していく政治的な動きとしてポピュリズム政治の展開を検討した。国際比較の観点から見ると、西欧諸国およびアメリカ合衆国において移民排外的なポピュリスト政党が日本には登場していない。日本はポピュリズムが現れる一定の条件を満たしているという点を含めて検討していった。 第3に、移民外国人労働者政策の検討である。国際比較の観点からは多くの国々で移民外国人労働者政策が実施されており、特に単純労働者が導入されている。しかし日本では長い間単純労働者の受け入れは行われていなかった。これが破られたのが2019年4月に実施された入管法の改正であり、在留資格「特定技能」の創出である。各国と比べてこの日本の方向転換は、移民・外国人の技能をめぐる政策戦略の展開と理解することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国際移民の市民権の複数の側面を取り上げ、そのリベラル化の度合いを理解することができたため、本研究はおおむね順調に進展していると理解される。しかし、それら諸側面の関連についてはいまだ明らかにできていない。そこで、諸側面におけるリベラル化をつなぐ理論的メカニズムを考察しつつ、その他の側面の具体的事例を検討していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は本研究を以下の点から進展させていく所存である。 第1に、入管法の改正が成立したため日本における外国人の市民権の状況が急速に変化している。この状況を法的な面と実態的な面の両面から検討していく必要がでてきた。 第2に、移民・外国人の市民権を制限する政治的な動きが急速に進展している。特に、アメリカ合衆国トランプ大統領によるメキシコ国境の壁建設および移民政策の包括的検討の試み、英国におけるEU離脱による英国内移民の地位および諸権利の変化、イタリアのポピュリスト連立政権の移民制限的施策、さらにオランダ、オーストリア、スペイン、フランスなどにおける極右ポピュリズムの伸張が移民・外国人の市民権にどのような悪影響を与えるのかを確認しつつ、リベラル化もしくは反リベラル化の観点から理論的にまとめていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に国内の学会(日本社会学理論学会)において研究発表に対するコメンテーターを行うよう招待を受け、英国における調査を短めに切り上げたことが主要因である。次年度は、成し遂げられなかった研究討論および資料閲覧・収集を行うために国外旅費として使用予定である。
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