前年度から引き続き、国際移民の観点から市民権制度のリベラル化を分析した結果、以下のように考えられることがわかった。まずはリベラル化が進んでいる国がある一方、リベラル化に抗している国もあるというように変動にばらつきがあるという事実である。たとえばリベラル化が進んでいると見なされる英国は、新英連邦移民に居住権を含めた市民権を与えてきたことに加え、ムスリム移民を統合するために人種関係法を拡張する形で宗教を根拠とした差別を禁止する法制度を整備してきた。一方、リベラル化に抗している国も存在する。ひとつの例として東アジア諸国に属する日本が挙げられる。日本は、事実上の移民国家であるにもかかわらず政府は移民国家であることを拒否し、中央政府だけでなく地方自治体による外国人の統合政策が十分進んでは言えない。
これらを踏まえて最終年度の最も主要な研究として。諸国で程度が異なるリベラル化/反リベラル化のメカニズムはどのようなものかを考察していった。ヨーロッパ連合 (EU)、英国、メキシコ、フィリピン、ハンガリー、日本の市民権制度を重国籍の扱いに絞って考察した結果、重国籍を容認するロジックには少なくとも4つ存在することがわかった。その4つとは、(1) 相互的承認 (2) 統合の手段 (3) 功利的解決 (4) 超国家アイデンティティである。各国は4つのロジックのどれかに従い重国籍に寛容になっていることがわかる一方、日本はそのどれも満たしておらず、市民権の反リベラル化が残存する結果となっているのである。
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