2009年から実施され近年は毎年5000人規模に広がる、総務省地域おこし協力隊事業を対象として、大都市から地方への人の流れがどのようにして促され、どういったインパクトを地方、そして全国の社会構造に対して与えるのか、全国質問紙調査とケーススタディからアプローチした。 まず全国質問紙調査は、2017年8月と2019年9月の2度実施し、それぞれ1989名(回収率91%)、4485名(同74%)分の回答を得た。結果として、まず地理的移動で注目されたのが、札幌などの地方拠点都市から近隣への移動とその拡大である。さらに、移動後の定着や地域へのインパクトをもたらす移動の動機として、移動先地域とのつながりや自身のキャリアを活用する志向が重要であることがわかった。また、任期終了後、移動先地域に定着する場合、同世代の平均よりも家族形成や農林水産業・自営業に従事する割合が有意に高いことも確認された。ただしそれだけに、地方で進む保育・教育インフラの統合や経営環境の悪化が、定着後の子育てや事業継続に負の影響を及ぼし、定着率が3年後に5割を、8年後に4割を切る結果になっていた。 次に並行して進めたケーススタディは、第1に市町村と協力隊、地元関係者がともにビジョニングを行うことの効果を青森県などで検証した。結果として、任期終了後の定住率や活性化の実感を高めるだけでなく、市町村職員や地元関係者の能力や活力を引き出していた。さらに、定住後の協力隊の所得手段が自営業を軸に地域の潜在的な経済力を引き出すように多業化していた。以上の点は、衰退地域における人材と経済的基盤の再構築につながったと評価できた。 これらの成果は総務省や地方自治体に政策提言し反映されたたほか、International Seminar of the Poverty Redection Centre of Chinaなど国際的にも公表した。
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