2021年度もコロナウィルス感染防止の観点から岩手県沿岸地域に在住する調査対象者への対面聞き取り調査は再開できなかった。結果として被災したことが、進学、就職(「なりわい」の獲得)、結婚や出産、子育てにどのような影響を与えたかについて、15名中4人の対象者以外は、聞き取り調査が完了していない。2019年時点で聞き取ったことの範囲で判断すれば、転機を自立的に乗り切る要因になるのは、出産期、子育て期を通して、女性自身の収入(行商や商店経営、「カキむき」による稼ぎなど)や自身が裁量できる資産(山林の所有など)を持ち続けていたことである。その収入や資産は、職業訓練に関わる支出や次世代の進学費用にあてられていて、きょうだいや子どもの人生の転機の経済的資源にもなっていた。 次世代の家族支援策作成に寄与する知見を明らかにすることも研究の課題としていたが、調査対象者家族への聞き取り調査も完了していない。そこで岩手県立図書館に2020年以降に収められた震災資料195件の中から、東日本大震災時の状況を当事者がまとめている文献を選び、「記述され、伝えたい被災状況」として記載されている文献を検討することとした。『"伝えたいことあの日、私は小学2年生だった"』(岩手県立大槌高等学校復興研究会)、『"八年前の記憶 東日本大震災の教訓を風化させないために"』(大船渡市立越喜来中学校)等では、小学生の時に被災した経験を被災経験のない人たちへ何をどのように伝えようとしているか、大人が伝承しようとする『災害から一人ひとりを守る』(岩手県陸前高田市高田町上和野町内会)資料内容と比較しながら検討を進めている。195件の文献の中には、社会調査実習報告書(大学生による聞き取り調査報告書)も収められている。被災状況を知ることによる大学生自身の人生の転機についての検討は今後の課題となる。
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