社会的忘却の危機にあった根釧パイロットファームについて、当事者の資料を収集し、入植経験者にインタビューすることができた。人々の間でも、その経験および語りには葛藤や多様性がある。最初に語られがちなモデルストーリーは、華々しく喧伝された事業の裏で入植者たちが嘗めなければならなかった辛酸の語り、困苦にめげずに事業をなしとげた自負と誇りの語りなどである。これらはしかし固有の語りづらさを抱えていた。さらに聞き取りが進むと、過剰投資の経験をふまえた適正規模での酪農論、あるいは、森林や川の記憶に媒介されたエコロジカルな放牧酪農論のように、ありえたかもしれないオルタナティブについての語りも現れた。
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