研究課題/領域番号 |
17K04112
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
冨江 直子 茨城大学, 人文社会科学部, 准教授 (20451784)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生存権 / 歴費社会学 / 社会史 |
研究実績の概要 |
令和2年度は、主に三つの作業に取り組んだ。 一つ目として、令和元年度の研究成果として執筆した論文「大正期日本における「中流階級」の「生活権」論―生活保障をめぐる“自由と国家”への社会学的一考察」において「残された課題」としていた階層の視点からの検討のための作業に取り組んだ。令和元年度の論文では1920年代の新中間層の生活保障をめぐる議論を分析したのに対して、令和2年度は同じ時代の労働者や不安定階層の生活に関する記述を収集し、分析を進めた。新中間層は、俸給生活者であるために生活基盤が脆弱であり、また知識と矜持を持つゆえに国家・社会の中核たるべき人びとであると価値づけられていた。そして彼ら自身が、そうした社会的評価や階層としての自意識を根拠として、国家による生活保障を正当化していった。こうした新中間層の生活保障をめぐる議論は、労働者や不安定層の人びとを「下層」の階層として自らと差異化して表象するものであった。他方で、労働者や不安定層は、生活意識や規範の面では、新中間層と重なりあう部分があると同時に、自らの階層を他の階層と肯定的あるいは否定的に差異化する部分とがあったと考えられる。これらがどのように公的な生活保障の正当化につながっていくのかを明らかにすることが、現在行っている作業の目的である。 二つ目として、労働者や不安定層の救済に携わった人びとによる議論と実践として、東京帝国大学セツルメントの活動を中心に資料の分析を進めた。労働者や不安定層の人びとに支援者として直接に関わった知識階級の視点から、「下層」の人びとの生活意識を見てみることが、この作業の目的である。 最後に、昨年度から取り組んでいた森本厚吉の文化生活の議論と運動に関する論文を完成させた。近く論文集のなかの一つの章として刊行される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
大正期における生活保障への「権利」論についての研究の一部として森本厚吉の「生活権」論についての論文を仕上げ、次の課題に向けての資料の分析を一定程度まで進めることはできたが、感染症対策のために資料収集の出張等を延期したことにより、作業の進行が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き明治・大正期の「生存権」論および関東大震災後の「生存権」をめぐる議論と実践の分析をすすめていく。具体的には、1920年代における中流階級と労働者との生活意識を比較し、「生存権」論の形成過程を階層の視点から描き出す。また、関東大震災後の実践として、東京帝大セツルメントの活動を中心に資料の分析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は新型コロナウイルスの影響で、資料取集のために予定していた東京出張ができず、次年度使用額が生じた。令和3年度は、東京への出張が可能になり次第、資料収集のための費用として使用していく計画である。出張が困難な状況が続く場合は、取り寄せを依頼できる資料を最大限に用いて研究を進める。
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