令和元年度に行った1920年代の新中間層の生活権論の検討および令和2年度に行った森本厚吉の生活権論の検討で明かになった新中間層の生活意識との比較を念頭に置きながら、新中間層の人びとによる議論において否定の対象とされていた「下層」の人びとの側の言い分を明らかにすることを目指した。 昭和初期の「浮浪者・ルンペン」や「日雇労働者」への調査資料に基づいて、「不定居」的な貧困状態にあった人びとの側から語られる生活と労働の規範を検討した。本研究では、空間的にも時間的にも一般社会への帰属が不安定な人びとを、「シティズンシップの境界」を生きる人びととして捉えた。そして、「シティズンシップの境界」における生活と労働の規範形成に対して、調査者・支援者による語りと、被調査者自身の語りの二面から、接近することを目指した。 分析の結果、調査者・支援者の側にも、被調査者の側にも、一般社会のなかへの包摂への志向と、一般社会とは異なる「浮浪」や「日雇」の社会の肯定との二つの一見相反する方向の語りが見いだされた。また、一般社会のなかに安定した位置づけをもたないこれらの人びとの語りのなかで、「国家」が特別な意義をもっていたことが見いだされた。 研究成果は令和3年秋の社会政策学会の大会で発表し、その後論文にまとめた。論文は令和4年中に社会政策学会の機関誌に掲載される。
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