研究課題/領域番号 |
17K04113
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
仲田 誠 筑波大学, 人文社会系, 教授 (50172341)
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研究分担者 |
海後 宗男 筑波大学, 人文社会系, 教授 (60281317)
佐藤 貢悦 筑波大学, 人文社会系, 教授 (80187187)
石井 健一 筑波大学, システム情報系, 准教授 (90193250)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 情報倫理 / ロボット倫理 / 日本的価値観 / 東南アジアの価値観 / 比較情報倫理 / もののあわれ / 世間・運命観 / ものづくりとまごころ |
研究実績の概要 |
本研究の先行研究である「情報化時代における東アジアの価値観調査」では、以下のような点が明らかになっている。1)日本人は「運命観」、「清貧の思想」、「間人主義」(濱口惠俊の用語)等という「世間・運命観」的な人生観・価値観をもっている。2)これは「ロボット観(西洋的あるいは近代的な客観主義・科学主義の視点から見れば「アニミズム」的、あるいは「汎生命論的なもの」とでも言えるものだが、一方、「主客一如」的・「知るものの知られるものの相補性」(西田幾多郎)を重視する東洋的考えに基づけば、命題と事実の関係や原因と結果の関係を組み替える可能性を持つもの)や「社会的公正観(公私混同を嫌い、公正さや無私の精神を重視する)、「日本的倫理・美的意識融合意識(「もののあわれ」的)」と一体となり、一種の「包括的人生観」のようなものを形成している。3)この「包括的人生観」は「プライバシー観」、「ネットでのコミュニケーション」、政治関心度や環境問題への関心度、地域活性化への関心、企業倫理的な意識を規定する(あるいはそのような関心・意識と相関性を持つ)基盤的な価値意識のような役割を演じている。4)中国や韓国にもこのような「包括的人生観」や「世間・運命観」的な意識があるが、これは「情実的な意識」などの伝統的・前近代的な人間関係に関わる意識と融合している。今回の東南アジア調査は基本的に「東アジア」調査の延長線上に位置するものであり、すでにベトナムとタイ、インドネシアで調査を実施した。東南アジアのデータは、一部「公私」的価値観に関して日本と異なる傾向が見られるものの「世間・運命観」的な人生観・価値観が想像以上に広く広がっているという傾向は確認された。平成30年度は暫定的にスウェーデンでも学生を利用して意識調査を行ったが、驚くべきことにスウェーデンでも「もののあわれ」的価値観が存在することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は先行研究である「情報化時代における東アジアの価値観調査」の調査内容を基本的に踏襲するものであり、先行研究が日本を含む東アジアを対象とする調査であったのに対し、今回の調査は東南アジアを対象とするものになっている。調査票は東アジアと東南アジアでほぼ同じものであり、調査実施にあたっての準備作業はさほど困難ではないと予想されたが、実際はそうではなかった。調査票の翻訳は筑波大学在籍の大学院生と共同作業のかたちで行ったが、この過程の中で、東南アジア(具体的に平成29度はベトナムおよびタイで調査を実施、平成30年度はインドネシアで調査実施)では、日本的な価値観に関わる用語が現地では存在しないか、あるいは存在しても直訳では現地の人に理解できないものも多くあるということがわかった。調査実施には概念の意味の理解がまず必要であり、その上での翻訳作業が必要となった。その意味で、この準備作業自体が一つの日本と東南アジアの文化的対話をなすものでもあった。このような作業を踏まえ、分析を行ったが、十分な準備作業もあり、調査自体は順調に実施され、興味深い分析結果も得られた。具体的には、現地の人のものの見方を規定していると思われる「包括的な人生観」の存在の確認であり、またこれと関わると思われる「伝統的人間観因子」の確認である。平成30年度には、前年のベトナム、タイでの調査に加えてインドネシアでも調査を行い、基本的には、ベトナム、タイと類似する結果が得られた。さらに、平成30年度には、ロボット倫理や基本的価値観に関する比較調査をスウェーデンでも実施した。これは学生を対象にする調査で、調査対象者の数も十分ではないものの、日本的な価値観(「もののあわれ」など)の存在の可能性が明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
研究概要の項で以下のように記した。一見アニミズムとも思えるような日本的ロボット観は、実は、西洋的あるいは近代的な客観主義・科学主義の視点からだけでは十分につかめない「人間の生き方と連動した事物・技術の捉えかたの可能性」といった重要なものを示唆する意味づけをもっているのではないか。これは、ややもすれば技術の進歩と人間的な生き方の問題を切り離して考える傾向がある還元論的情報社会(現在またシンギュラリティ論ブームのようなかたちで再来しつつあるもの)を包括的・批判的に捉える上で重大な論点を提起するものであるとも言える。実際、情報化への進展にもかかわらず、平成の30年間日本はまったく経済成長しないという危機的な事態を継続的に経験しているし、少子高齢化はすでに深刻な危機的状況となって現れている。いまやITだけでは社会は変わらないというのは日本に関しては事実なのである。しかも、その技術への神話が、成果主義や競争原理、情報化による人減らし、そういった社会・経済的な施策と繋がる時、危機はさらに深刻化するという事態もわれわれは経験している。実際、われわれの調査はそういった見失われたもの(しかし潜在的には残っている)の重要性を示唆するものでもある。「ものづくりに込められたまごころ」、「職場での仲間との共同」、「地域社会での他者への配慮(独居老人など)」が、ロボットの意味、人工知能の意味、自動運転車の意味と連動するという結果がわれわれの調査でははっきりと出ている。モノへの共感、他者への共感、まごころへの志向性といったものが人々の生き方の根底にはあるのである。これはたぶん日本だけでなく、もっとグローバルな意味をもつ調査結果であることもわれわれは知っている。スウェーデンでも、「もののあわれ」への共感はあるのである(暫定的調査によるが)。今後、こうした問題意識を含めて調査データをさらに分析していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は計2回の調査を実施したが、翻訳代などの経費を削減し、また質問数を調整するなどして実施経費を予定より安く抑えることができた。また、平成30年度は2度海外で発表を行ったが、その内の一つは別研究(日本とスウェーデンの比較研究)からの支出を受け、出張経費を削減することができた。
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