難病に関しては、ALS患者を集中的かつ継続的に調査した結果、医師、ピア(同病者)、看護師、非専門家である支援者などが物語の優れた聴き手、もしくは物語を聴く場の構成要素として機能していることが明らかとなり、それを「混沌を受け止める聞き手」、「問いかける聞き手」、「背中を押す聞き手」、「語りの機会を開く聞き手」、「記録をとる聞き手」とカテゴライズした。 高次脳機能障害に関しては、主に高次脳機能障害者の家族に焦点を絞ったうえで、ピアによるグループや面談に対する参与観察を行い、聴き手の反応が自己物語構成に資することが明らかになった。単に「共感」と片づけられやすい聞き方についても、一人称(「私の場合は~」)の語りと、多様で互いに異なる経験の相対的な一般化しながら共通性に関する橋渡しを行う語り方がピア相談員の反応の中に含まれており、それを通じて語り手の苦しみの存在が承認されることを分析できた。 これらのことから、何らかの聴き手の存在によって患者は長く生きる自己物語形成を模索しやすいのではないかという含意が導かれた。本研究では、難病においても、高次脳機能障害においても、苦しみをもって生きる過程における他者とのコミュニケーションのあり方が重要であること、また具体的にどのような聞き手が求められるのかについて、かなり研究を前進させることができた。とりわけ、難病においては、専門職やいわゆる素人の聞き手を特徴づけた点、高次脳機能障害に関しては、ピア・サポートの有効性が示唆された点にも本研究の学術的・社会的意義があるといえる。
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