研究課題
本年度は研究総括に向けて補足調査を実施し、種苗生産における女性の熟練労働について経営別に類型化し考察を進めた。また、研究会において成果の一部を報告することでデータの精度を上げた。種苗生産の全工程を通してみると、生産技術は可視化できる熟練労働と可視化できない熟練労働とに分類して整理、検討することが有効であった。注目していた接ぎ苗生産においては、女性の技術は可視化できる熟練技術として位置付けることができた。それらは生産技術全体のなかの一部の技術が切り取られて女性の労働になっており、女性の技術は専門的技術として意義付けを行うことが可能であった。先行研究分析とこれらの考察にもとづいて、種苗生産におけるジェンダーと農村部における女性の熟練労働の社会的意義を解明することができた。また、3年間にわたり調査を実施したことにより、このような女性の熟練労働を提供する労働市場についても興味深い地域社会環境を明らかにすることができた。女性の技術に関する論考の一部は、「女性農業者の活躍と課題―支援者としての農業委員会の役割に期待―」『農政調査時報』第583号において公表した。他方で、今年度実施した複合経営を行う苗農家での追加・補足調査では、変化する市場の傾向や需要に対して、柔軟な産地対応を可能にしている背景を解明することができた。市場の変化や災害の際には、種苗生産を行う農家のネットワークが有効に機能していたのである。ジェンダー的であるが歴史的慣行による農家ネットワークでは、農家同士で技術共有がなされており、常時での対応はもちろんのこと、非常時においても相補する関係にあることがわかった。地域社会に埋め込まれた農業経営を基礎にするジェンダーネットワークについては今後の研究課題としたい。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
農政調査時報
巻: 第583号 ページ: 9-15
The Journal of the Foundation for Agrarian Studies
巻: Vol.9, No.1 ページ: 33-45