研究課題/領域番号 |
17K04130
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
西倉 実季 和歌山大学, 教育学部, 准教授 (20573611)
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研究分担者 |
星加 良司 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 准教授 (40418645)
飯野 由里子 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任助教 (10466865)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 美的労働 / ルッキズム / 外見に基づく差別 / 身体 / 新自由主義 |
研究実績の概要 |
先行研究において、「美的労働(aesthetic labour)」、「外見差別(discrimination based on appearance)」、「職場におけるルッキズム(lookism in the workplace)」という異なる現象を指示するはずの概念が互換的に用いられている現状があり、これらの関係性を整理するための文献調査および理論的検討を実施した。 まず、ルッキズムに関係する倫理学や法学の議論を検討し、ルッキズムを①人の魅力を判断する基準として外見が用いられるという現象、②人の人格やパーソナリティーを判断する基準として外見が用いられるという現象、③人がある機能を遂行できるか否かを判断する基準として外見が用いられるという現象の3つに分類した。雇用者が企業イメージやブランドの個性を身体で体現して顧客にアピールできる「美的スキル」を持つ労働者を雇用し、その外見や立ち居ふるまいを開発・管理・利用する美的労働は、このうち③に当てはまる。 美的労働、すなわちある機能遂行に関係したルッキズムをさらに、(1)外見と機能的な能力とが必ずしも関係しているとは言えない場合、(2)外見と機能的な能力とが第三者の意見を通じて間接的に関係づけられている場合、(3)外見と機能的な能力とが外見的魅力、人格やパーソナリティーについての判断を通じて関係づけられている場合の3つに分類した。このうち、(3)の一部を除いて外見差別に相当することを確認した。 先行する議論において曖昧に使用されている「ルッキズム」、「外見差別」、「美的労働」の関係性を整理したことにより、これまで独立して取り組まれてきた各々に関する議論を統一的な枠組みのもとで理解することが可能になった点は、意義ある研究成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の研究計画では、美的労働の従事者に対するインタビュー調査を予定していたが、重要概念を明確にするための理論的検討に時間を要し、調査に着手することができなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
概念的整理を踏まえ、美的労働に従事する人々へのインタビュー調査を実施し、その経験のありようを分析する。外見はこれまで、人格や個性と深く結びついており不可変なのだから、それを評価するのはよくないとされてきた。しかし、今日における外見は可変的で開発・訓練可能と考えられており、その位置づけは大きな変化を遂げた。外見が労働能力と同様に「向上」を期待されて変更させられ、評価対象に据えられることで、個人の尊厳をめぐるいかなる問題が生じうるのか、外見の良し悪しを労働能力とみなすことに倫理的・社会的な問題はないのかについて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたインタビュー調査が実施できなかったため、調査に関わる交通費と謝金を使用しなかった。次年度使用額については、改めて計画しているインタビュー調査のための交通費および謝金として使用する予定である。
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