木炭生産は持続的な森林利用につながる一方で、過度な生産活動は森林の荒廃をもたらすこともある。このため近年は、国家が製炭用の原木調達について管理を強化しつつある。日本は世界の中でも消費が多い国であるが、今日の国内市場で流通する木炭は、備長炭に代表される国産高級炭と低価格の外国産炭に二極化している。そこで本研究では、国内外の森林管理制度が木炭生産と流通におよぼす影響について、日本国内と2000年代半ば以降に日本への輸出量が拡大したマレーシアとインドネシアで調査を行った。最終年度には、マレーシアにおける主要な木炭生産地であるマレー半島西岸・ペラ州のマングローブ地帯およびインドネシア・リアウ州において、現地生産者および流通業者を対象に調査を実施した。マレーシアでは政府により伐採区画と炭窯数が管理され、森林保全と生産活動が両立していた。そのため、日本の流通業者にとっては産品のトレーサビリティの把握が容易であり、それが商品価値を高めている。一方、インドネシアでは州・県レベルで木炭生産への対応が異なるものの、一部地域では製炭業そのものが禁じられ、その他の地域でもマングローブ地帯では製炭業が許可制となっていた。沿岸部でマングローブ林保全の動きが強まるなかで、インドネシアでは内陸部で製炭業が新たに生まれ、大農園開発地や休閑林・老朽ゴム園から利用されていない樹木を対象に、樹種を限定して原木を調達していた。このように森林に対する負荷は小さいものの、点在する小規模な原木調達先を逐一示すことは難しい。このためにトレーサビリティの明示化は難しく、そこで生産された木炭は日本よりも、近年需要が伸びている中東諸国に輸出されているものと考えられる。このように本研究では、各国の製炭業が「環境負荷」低減や「現地社会への配慮」を鍵とする制度やシステムで相互に連動しながら再編成されていることが明らかとなった。
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