2021年度も引き続き、医療専門職の「組織化された自律」の構造と変容について、社会学的観点から検討した。最終年度(本来の最終年度は2020年度だが、1年延長)である2021年度は、EBM(evidence-based medicine)の制度化に伴う、医師の自律の変容を検討した。 その成果の一部は、2022年3月に公刊した(中川輝彦,2022,「二つのEBMの誕生」佐藤純一・美馬達哉・中川輝彦・黒田浩一郎『病と健康をめぐるせめぎあい――コンテステーションの医療社会学』ミネルヴァ書房,119-141頁)。この論考では、医療(medical practice)/医学(medical science)が、各国社会で制度化された営みであると同時に、グローバルにネットワーク化された営み(=「専門家システム(expert system)」)の一端をなしているという観点から、「専門家システムとしての医療」におけるEBM概念の形成を検討した。この検討に基づき、(1)EBM論は、旧来の医療に代えて新しい医療の様式(=EBM)を提案したが、EBMには2つの異なる様式が含まれていたこと、(2)2つのEBM、すなわち①診療ガイドラインの利用を重視するEBMと②医師の(再)教育を重視するEBMでは、前者の方がその制度化に伴う医師の自律の変容(縮減)が大きいこと、(3)このため診療ガイドラインを重視するEBMの制度化は、自分たちの自律を守ろうとする医師たちの反発・抵抗を招いたことを指摘した。
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