研究課題/領域番号 |
17K04138
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研究機関 | 都留文科大学 |
研究代表者 |
田中 里美 都留文科大学, 教養学部, 教授 (00300129)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フィンランド / 福祉国家 / 社会福祉・医療保健制度 / 地方自治制度 |
研究実績の概要 |
福祉国家は、これを支えてきた諸条件の変化に直面しており、先進国では、その持続可能性を確保するための模索が続いている。本研究は、この動きに関心を持ち、他の北欧諸国に遅れて、社会福祉・医療保健制度改革に取り組んだフィンランドを研究対象として取り上げる。 フィンランドでは戦後、社会福祉・医療保健サービスを整備し、サービスの組織化責任を基礎自治体に委ねてきた。1990年代の初頭には、国庫負担金(valtionosuus)改革により、財政に関する基礎自治体の裁量をより大きくした。これ自体は地方分権としてとらえられるものだったが、改革後に経済危機がフィンランドを襲ったため、サービスカットを行う自治体が出た。これにより自治体間で、サービスのレベル、利用可能性に関する差が大きくなった。また一方で、医療費は増大の一途をたどった。こうしてフィンランドでは、社会福祉・医療保健サービス改革が政治課題として浮上するようになった。 改革は、サービスの組織化責任を、市町村より大きな単位に移管するものとして企図された。本研究は、改革の具体に迫るため、北極圏を範域に含み、広大な過疎地域を抱える北部ラップランド地域とその中心都市ロヴァニエミ市、南西部の古都トゥルク市を中心とする地域を対象として、新制度施行までの準備、施行後の過程に並走し、制度改革の全体を検証することを目的として企画された。 2022年度は、現地調査を行わず、文献調査による研究のみとした。研究成果は、論文一点である。ここでは、2023年1月1日に発足する新制度が、首都ヘルシンキには適用されなかったことに注目し、グローバル化の影響の下で顕著になっている、フィンランドの都市重視、競争重視の政策に位置付けて、この改革の性格を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、フィンランドで戦後最大の改革と言われた社会福祉・医療保健制度およびマークンタ(広域自治体)改革について、施行前の準備と施行後の過程を分析する予定であった。しかし、研究計画策定時には予期していなかった二つの事柄により、進捗に大きな影響を受けた。 一つは調査対象である改革それ自体の遅延である。改革は、当初考えられていたより複雑で膨大な内容を含んでおり、また、憲法の規定とのすり合わせに問題を抱えていた。首相は任期を残して辞任し、改革は頓挫した。その後、2019年4月の国政選挙を経て成立した新たな政権下で、改革は仕切り直しとなった。 研究の進捗に大きな影響を与えたもう一つの出来事は、2020年以降のCovid-19の世界的な流行である。これにより、フィンランドでの現地調査が叶わなくなった。このため、インターネット等を利用した情報収集、文献調査により、研究を進めた。2022年度も同様の状況であった。 上記の理由により、研究の実施はやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、WHOの緊急事態宣言の終了にともない、海外渡航も正常化されるなど、環境が整ったため、現地調査を実施する。調査は、トゥルク市およびロヴァニエミ市で行う。調査においては、この改革において中心的な役割を担うことになる「福祉行政区」の担当者、改革によって社会福祉・医療保健サービスの組織化責任を失った市町村の担当者を主な対象として、以下について聞き取りを行う。 (1)福祉行政区における社会福祉・医療保健サービスについて(①組織化の具体について、②財政について、③サービスの生産サイド~サービス提供主体に対するコントロール、④この改革への認識、(イ)健康の平等は果たされるようになるか、(ロ)より安く、より良いサービスが提供されるようになるか、(ハ)他の北欧諸国との異同) (2)市町村における改革の影響(①議会の社会福祉・医療保健関係委員会の改廃について、②議員定数の削減予定、③住民の福祉向上のための施策~事後的対処からプロアクティブなアプローチへの転換など) (3)新しい社会福祉・医療保健制度の全体的特徴(①社会福祉・医療保健制度にかかる財政~KELA、雇用主、民間保険等との関係、②公的ヘルスセンターと職業ヘルスステーションの整理、③過疎地における医師確保およびその費用の低減の工夫、④介護度の認定に用いられる指標の全国的な統一化とサービス利用データの国による集約、⑤社会福祉サービスにおける改革、⑥近親者ケア支援の全国的普及、⑦社会福祉・医療保健サービス以外の「一部事務組合」の存続、その他、福祉行政区内でのサービス生産とEUの競争法の関係について等) 聞き取り調査とともに、資料を収集し、分析を行い、改革についてその特徴を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は、Covid-19パンデミックの影響を受け、フィンランドでの現地調査実施の環境が整わなかったため、計上されていた旅費が使用されないままとなった。 2023年度は、2023年1月1日に施行に移された改革後の新制度の性格を明らかにするため、トゥルク市およびロヴァニエミ市において現地調査を実施する。フィンランドへの航空運賃他旅費、これと関連した人件費・謝金、国内の学会参加費、文献購入費を中心に利用する予定である。
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