研究課題/領域番号 |
17K04153
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
稲葉 奈々子 上智大学, 総合グローバル学部, 教授 (40302335)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 移民 / フランス / ジェンダー / 植民地主義 / ポストコロニアル / 社会運動 |
研究実績の概要 |
住宅への権利をはじめとする貧困をめぐる社会運動を担う移民女性および支援者に対するインタビュー調査を行うことで、移民女性の貧困問題を構成する要素を明らかにするとともに、その問題を解決するにあたって、どのような論理が用いられているのかを解明することが研究の目的である。 移民女性や貧困層などマイノリティは一般に、社会運動を担うにあたって必要な資源を欠き、公共空間からも排除される傾向にあるため、当事者運動が活性化しない。フランスにおいてはとくに普遍主義的な言説が社会運動においても強く、移民女性の直面する問題については、植民地主義に起因する人種差別や階級差別の問題として運動が形成されることが難しい。しかし近年では非正規移民や移民女性が担い手となった運動が活性化している。運動の初期の段階では、フランス人支援者の存在がない状態で生起しており、活性化にともなって労働組合や市民団体など支援者が合流していることが明らかになった。 これは、運動を形成する発端においては当事者の果たす役割が大きいが、継続し、運動が拡大していく局面では支援者の獲得の有無が重要になることを意味する。 しかし、支援者の獲得にあたって、当初掲げられていた植民地主義や人種差別を貧困の要因として糾弾する言説は、普遍主義的人権の問題に回収されていく傾向にあることがわかった。 今年度は、とくにホテルの清掃労働者のストライキについての調査を実施し、調査対象となった労働総同盟は、第三世界主義の系譜に位置づけられるにもかかわらず、運動の拡大の局面では、人種やジェンダーといった要素は捨象されることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
市民団体住宅への権利運動および労働組合労働総同盟については予定通り順調に調査を実施できた。アフリカ出身の女性団体については、2019年度にインタビューをするアポイントメントをとることができたため、おおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
移民女性を担い手とする、パリ郊外のサンドニに拠点を置く団体については、資料収集は完了したが、インタビューは2019年度に集中的に行う。これらの運動団体は、普遍主義的な市民運動や労働組合とは袂を分かっており、明示的に植民地主義批判を掲げることで、運動への当事者の参加が増えていることが明らかになっている。運動拡大の局面においてもポストコロニアルな主張を展開し、それによって支持者を失わない要因を明らかにすべく、可能な限り多数の担い手にインタビューを実施する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学の業務との関係で、調査のために海外出張を予定していた期間よりも短い滞在となったため、次年度に繰り越しが生じた。
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