本研究の目的は、多国籍企業に対するグローバルな労働規制の実情を明らかにし、グローバル化に対応した労使関係のあり方を検討することにある。計画では、製造業の多国籍企業を対象に、本社労働組合と、海外工場労働組合にヒアリング調査を実施し、両者の連携を明らかにし、グローバルな労使関係構築の道筋を描き出す予定だった。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大により、海外調査の実施が困難となった。 そこで2021年度以降、分析対象を製造業から航空産業に変更することとした。航空産業は、パンデミックを受けて各国政府が人々の移動を制限したため、業績が大きく落ち込んだ。国を越えて生じたコロナによる雇用危機を題材に、国際産別組織であるITF(International Transport Workers’ Federation:国際運輸労連)の活動内容を調べ、グローバルな労働規制の実情を調査研究した。 コロナ下、ITFは、業界団体であるIATA(International Air Transport Association:国際航空運送協会)とともに、需要が急激に縮小した後も、雇用を継続させるよう各国政府に助成金等を要請した。各国の労働組合は、ITFと足並みをそろえ、ロビー活動を行った。その結果、アメリカのように、これまで企業内での雇用維持のために助成する制度が存在していなかった国においても、航空産業を対象に、特例として一時的に制度が導入された。ただし、コロナは、当初の想定以上に長引き、政府助成だけでは雇用の確保が難しかった。各国の労使関係の相違により、レイオフや賃金カットなど、雇用をめぐる状況が大きく異なったことが明らかになった。本研究の成果は、単著にまとめ、2022年10月に刊行した(首藤若菜『雇用か賃金か 日本の選択』筑摩選書)。
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