研究課題/領域番号 |
17K04172
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
宮本 直美 立命館大学, 文学部, 教授 (40401161)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 音楽社会学 / 文化社会学 / 演劇社会学 / ポピュラー文化 |
研究実績の概要 |
本課題は19世紀のヨーロッパにおいて音楽が普及する際に中心的役割を果たした劇場という「場」に注目するものである。器楽の美学においては「劇場性theatricality」が批判対象になった一方で、「劇場theatre」自体は近代ヨーロッパの都市生活において、単に芝居を提供する場として機能していたのではなく、公共の社交生活空間として、音楽のジャンル形成および普及に寄与し、諸階級の余暇活動、流行発信、道徳意識、著作権整備などの面でも重要な役割を担った。音楽史研究が従来、音楽受容の現場としてコンサートに注目してきたのに対し、劇場という場はクラシック音楽/ポピュラー音楽とのカテゴリー形成において重要な役割を担っていた。本課題の第一の目的は西洋近代の都市における劇場という視角から音楽活動を考察することであるが、それは同時に音楽学・美学・歴史学・演劇学を横断する形での新たな演劇社会学の試みでもある。 初年度は劇場と劇音楽のポピュラリティの問題に照準し、日本ポピュラー音楽学会において学際的なワークショップを開催した。そこで社会派音楽劇、映画音楽、ミュージカルといったジャンルの専門家が意見交換をすることによって、劇音楽と大衆性に関する様々な課題の広がりを確認した。この成果は社会学的・美学的な理論的土台として今後の研究にも生かせるものである。 またその一方で、ミュージカルという大衆的音楽劇ジャンルにおいて音楽が果たす役割を楽曲分析という形で考察し、日本演劇学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の初年度研究計画には掲げていなかったが、日本ポピュラー音楽学会の2017年全国大会において機会を得ることができたため、「ポピュラー音楽と劇音楽」と題したワークショップを開催した。本課題の申請者である宮本はミュージカルを、大田美佐子氏は社会派音楽劇を、白井史人氏は映画音楽をそれぞれ題材として発表を行い、ドラマにおける音楽が作品内において、また流通の場においてどのようにポピュラリティ獲得に寄与してきたかを議論した。異なるジャンル間で共通する論点は、ドラマとしての統一性と、柔軟な断片的受容の可能性であるが、前者は芸術作品としての要件に関わり、後者は大衆的受容の条件となる。このワークショップに集まった他領域の専門家とも意見交換を行うことができたが、このような学問分野横断型の企画により、本課題の今後の理論的考察の基盤を得た。 また、現代のミュージカルの楽曲分析を行い、大衆的ジャンルにおける音楽表現の可能性と受容についての考察を日本演劇学会で発表した。 19世紀の音楽普及については、ロンドンの図書館で音楽出版事情に関する資料調査を行った。
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今後の研究の推進方策 |
劇場という場から音楽のポピュラリティを考察するべく、引き続き劇音楽の社会学的・美学的分析を行うが、これについては隣接する分野の専門家との研究会を通してより高次の理論枠組を構築するよう努める。特に1920年代の欧米が一つの注目点となるが、それは芸術ジャンルとしてのオペラ、娯楽としてのオペレッタ、社会派音楽劇、大衆的ミュージカル、そして映画音楽が確立しつつある時期だからでもある。これらが都市の娯楽として人々の生活にどのような影響を与えたのかという点についても考察を行う。 他方、そうした20世紀初頭の娯楽界を準備した19世紀ヨーロッパについては音楽出版事情に関する資料を引き続き調査し、情報収集に努める。
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