研究課題/領域番号 |
17K04175
|
研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
松浦 さと子 龍谷大学, 政策学部, 教授 (60319788)
|
研究分担者 |
北郷 裕美 大正大学, 地域創生学部, 教授 (20712623)
小川 明子 名古屋大学, 情報学研究科, 准教授 (00351156)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | コミュニティ放送 / コミュニティラジオ / 世代交代 / 基幹放送 / 理念の継承 / AMARC(世界コミュニティラジオ放送連盟) / 防災とラジオ / 放送から通信へ |
研究実績の概要 |
2018年度のヒアリングでは、地域の産業構造のなかで再三代表が交代しても、議論・対話が繰り返されている場合は、理念がブラッシュアップされながら継承される状況が見てとれた。それらがなされない地域では、地域の文化圏の成熟度や選挙による首長交代がコミュニティ放送の理念継承にも大きくかかわることがわかった。 これまでトップ交代を中心とした世代交代に注目してきたが、パーソナリティやリスナーも含め地域文化全体の世代交代が放送理念に大きな影響を与えていることに注目し始めている。例えば神戸FMわぃわぃのネット放送移行の経緯は、コミュニティ放送領域の機能や活動がネットに移行するという「業界」全体の「世代交代」を示唆するものである。 とくに、株式会社で創設されたものの住民の人権を重視し多言語放送を開始した経緯において、また誰のいのちをも見捨てないという活動の性格において、代表や担い手の交代を経て、非営利運営を旨とする「コミュニティラジオ」の国際的理念を継承していることが認められ続けている。このことが2018年秋にFMわぃわぃがインドネシアで共同開催したAMARC世界コミュニティラジオ放送連盟アジア太平洋地域会議の内容から伺われた。 また同会議では南海トラフの影響が予想されるエフエムわかやまのAIアナウンサー実践報告、コミュニティでの多言語放送を前提とした「くにたち」の防災ワークショップ、宮古市や山元町の元臨時災害放送局のヒアリング等により、次のような新たな研究視座を確認した。 すなわちいわゆるトップの「世代」交代ではなく、コミュニティ放送が置かれたそれぞれの時代にふさわしい社会的包摂を含む社会課題への対応、コミュニティの要請の変化(交代)に注目し、そこでの理念の継承の有無を確認することは研究の進展と捉えられる。分担者の「災害」への関心、「ケア」のラジオへの取り組みは、本研究に刺激を与えた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は各大学の学務、学会委員の公務増加等もあり、計画段階に予想できなかった研究環境に置かれ、本研究会は日程的には順調とはいえなかった。しかし、数少ない日程のうち、分担者がそれぞれの関心・関係を活かし、ヒアリングに出かけ、他研究をも主催・実践、映像記録の企画を行っていたことで、研究には大きな示唆があった。 まず、これまでコミュニティ放送研究をともに行ってきたFMわぃわぃの阪神淡路大震災後のネット放送移行までの経緯は、コミュニティ放送領域の機能や活動がネットに移行するというコミュニティ放送「業界」全体の世代交代を示唆するものであった。 FMわぃわぃは株式会社で創設されたものの国際的「コミュニティラジオ」の理念を継承していることが認められ続けている。このことはFMわぃわぃが2018年インドネシアで共同開催したAMARC世界コミュニティラジオ放送連盟アジア太平洋地域大会の内容から伺われる。一方、AMARCで共有されている西洋的価値観やリベラルな理念がアジアのコミュニティでどの程度シェアされているのかは今後確かめてゆきたい。 また南海トラフ関連地震が予想されるエフエムわかやまのAIアナウンサー実践報告や「くにたち」小さな書店での分担者の防災・多言語放送についてのワークショップ、東北でのヒアリングの結果、次のような研究視座の再確認ができた。 トップの「世代」交代ではなく、コミュニティ放送が置かれたそれぞれの時代にふさわしい社会的包摂を含む社会課題への対応、グローバル化、リスナーの要請などの変化を「交代」として捉え、そこに理念の継承が実態としてなされているかを観察することが研究の視座であることが確認できた。このことは大きな進展といえよう。分担者の「災害」への関心、「ケア」のラジオへの取り組みからも本研究成果に深みが与えられたと受け止め、順調な変化があったと捉えた。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでのコミュニティ放送研究同様、本研究においても地域それぞれの各局の取り組みや背景により、世代交代や理念の継承の概念を一律に捉えることが困難なことが改めて明らかになった。また人事による交代の背景はなかなか明らかにされず、また公表しづらい人間関係もあり、客観視も容易ではない。 世代交代をパーソナルな人脈や組織構造から捉えればそれぞれの地域特性は明らかになることもあるが、それだけでは非常に狭い範囲の「世代交代」が概観できるだけであろう。ヒアリングの実施やコミュニティ放送関係者の実践から、世代交代についての視野をさらに広げることで、コミュニティ放送を取り巻く環境と、連携とネットワークの中から継承すべき理念を選択していることを明らかにしたい。 人事に限らず、変化の背景となる「世代の交代」とは何なのか。進展する「通信と放送の融合」への懸念と期待、急速な高齢化、人口減少、経済的疲弊、子どもの貧困、外国人労働者の受け入れ、そして防災に向き合うコミュニティやリスナーからの要請、そして解決すべき地域社会の状況変化に目を向けるラジオ文化の環境にあって、重要なのはどのように前世代と次世代をつないでおられるかを探ることではないかと思われる。 また、住民を二分する議論が起きている地域でコミュニティ放送が果たしつつある役割に注目したい。若者たちが意見の対立を越えて、スタジオで共に語る番組放送を行っている。「政治と経済」に抵抗を示していた世代の担い手は何を変容させたのだろうか。 研究最終年にあたり、本研究において共有すべきことは、トップの世代交代のみならず、ラジオの設立動機に十分遡りつつ、地域社会状況、出演者・リスナーの世代交代、地域の助成金などに現れる地域の課題等、ラジオを取り巻く環境変化を捉え、コミュニティ放送の地域における「世代交代」と「継承された理念」について、調査と検討をまとめたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に分担者全員が学務その他で調査活動の日程が限られたため、遠方調査が叶わなかった。が、新たに調査先・研究の視野を拡大して、ヒアリングを実施する予定である。 調査最終年でもあるため、また当初から延長して調査を実施することを計画していたこともあり、その計画を再構成するためにも研究会を予定しており、そこで最終調査地を決定する。 現在、候補地を具体的に抽出し、現地データの収集中である。主に、社会的包摂を積極的に番組の主旨として取り込み始めた局、若者たちが議論・討論にコミュニティ放送を用い始めた複数の局に、これまでと異なるラジオの用い方に変更した背景について、経営者やスタッフ、出演者のヒアリングが実施できないか、アプローチを行っている。 これまでのヒアリングでは、創設期からある程度長期にわたり運営されている放送局にアプローチしてきたが、最終年は未踏エリアにも、その独特の背景に注目して調査の対象を拡げることを、年初研究会で検討した。そして、明らかに理念が変更されている放送局にその背景について深く探り、放送エリア全体が、コミュニティ放送設立以後、大きな歴史的転換が行われていることにも注目しようとしている。
|
備考 |
Conference Report of 4th AMARC Asia-Pacific Regional Conference: “Community radios for Resilient Societies”の映像記録は科研費を用いて作成、DVD化し、大会公式記録としても利用された。制作 日比野純一・橋爪明日香・企画 松浦さと子
|