研究課題/領域番号 |
17K04175
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
松浦 さと子 龍谷大学, 政策学部, 教授 (60319788)
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研究分担者 |
北郷 裕美 大正大学, 社会共生学部, 教授 (20712623)
小川 明子 名古屋大学, 情報学研究科, 准教授 (00351156)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | コミュニティ放送(FM) / 世代交代 / 財源調達 / クラウドファンディング / ジェンダー / 多様性 / 若者 / 政治 |
研究実績の概要 |
2021年度は、オミクロン拡大の影響から現地調査を回避し、オンラインによる研究会やヒアリング調査を数回実施し、そのうち数回をコミュニティ放送のスタッフや研究者に公開することで研究成果の社会貢献活用を目指した。 まず、これまでの研究成果の共有として、分担者北郷裕美がコミュニティ放送の閉局状況について、また分担者小川明子がコミュニティ放送における医療的マイノリティや受刑者の番組制作状況について札幌三角山放送局の状況を、代表者松浦さと子が政治的テーマをコミュニティ放送の番組で若者が取り組んだ沖縄FMやんばるの状況を報告、共有した。そして、メディアとジェンダーについて現状批判的なデータや事件が次々と明らかになる状況のなかで、コミュニティ放送ではトップに占める女性が1割を超え、発言力と経営力を備えている実態が、協力者小柴高志との共同調査によって明らかになった。地域社会から、多様性が番組や経営に反映されている状況がわかってきた。なお、小柴はコミュニティ放送を訪問しており、2022年度からそれらのネットワークを活かして、オンライン併用で全国のコミュニティ放送を紹介する番組を始めた。本研究も多少貢献している。さらに、小川明子のコミュニティメディアのファンドレイジング研究と共催で、クラウドファンティングを実践し成功体験を持つFMやんばるとFMアップルの事例を聴き、コミュニティ放送の財源がコミュニティ内のみならず広範囲の支援者によって寄付されていることがわかった。とくに、番組内容や特定の課題共有、「推し」活動の拡大などからコミュニティメディアの関係人口拡大の状況を確認できた。 最後に2022年2月末に閉局した大阪府枚方市の第三セクター局のFMひらかたの調査を行い、財源が多様化していないリスクについて確認、現在、考察を継続ししている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多少遅れがみられることをあげればその最大の理由は感染状況の拡大である。緊急事態には至らなかったが、勤務校では遠方の出張を伴う調査について警戒度が高く、十分に計画的な現地調査ができなかった。 しかし、研究計画にはなかったさまざまな出来事から、明らかにすべき知見の枠が拡大し、思いもかけないことが明らかにできた1年でもあった。特に、オンラインヒアリングと、協力者の地道な長期に渡る研究成果のシェアにより、単なるトップ交代に見られる「世代交代」観とは異なる、その背景にあるものをさまざまに考察することができた。例をあげれば、社会が放送に対して、管理職の女性の少なさを問題としジェンダーの観点からコミュニティ放送の世代交代に注目することの必要性が望まれたなかで、研究代表者と協力者が長期にわたり、女性のトップのいるコミュニティ放送局に注目していたからであるが、地方からコミュニティにおける発言力や経営力を支える女性たちの姿が浮かび上がった。特に故人となった札幌の三角山放送局での女性のトップの経営方針がコミュニティ放送の新たな方向性を示すこととなり、世代交代に女性が現れることの意義が示唆できたと考える。 また、残念なことではあったが閉局事例が示すものを目近にすることとなり、財源の多様性について具体的にその問題点を明確にできたことは、机上の空論に終わらず、市民がコミュニティメディアを支える意義を考える大きな契機となった。 さらに、クラウドファンディングの成功事例をコミュニティ放送の複数局に見ることができ、コミュニティメディアの財源の新展開を考察する機会が与えられ、有意義な議論ができた。 このように、全体としては遅れがみられるものの、新たな知見に恵まれ、本年に研究を締めくくるために、おおむね順調に進展していると報告できる。
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今後の研究の推進方策 |
感染症の影響により延長に次ぐ延長で、研究のまとまりがなくなってしまうのではないかと危惧していたが、2021年度に得られた示唆を含め、多くの多角的な知見から、最終年度となる本年には、コミュニティ放送の世代交代に見るさまざまな新たな知見を提示できそうである。 とくに、コロナ禍でオンラインやクラウドファンディングの在り方など、研究計画を立てた段階では想定していなかった様々な条件が、コミュニティ放送の世代交代の今後の方向性を考察するために必要な条件となっていることが明らかになっており、調査研究期間が徒に延びたのではなく、延長に際し、研究に有効なさまざまな条件が立ち現れたと解釈している。 ジェンダー、関係人口、多様性、感染症対策、クラウドファンディング、オンラインコミュニケーション等々、延長されたゆえに発見できた新たな観点に加え、2022年度には、市場に置かれたSNSの国際的な状況や、ロシアによるウクライナ侵攻による言論の自由の在り方が、コミュニティ放送の状況にも大きく影響を与えることが想定される。さまざまな社会的背景のなかで、将来のコミュニティ放送の世代交代について、現地調査も加えた調査結果から、得られる知見をまとめてゆきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症拡大のため、現地調査ができず、交通費を使い残した。
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