本研究では、私有地に対して地域コミュニティがどのような理屈で関与することができるのかを検討するものである。 たとえば、農地を例に挙げると、その農地の所有者は、自らその農地を耕作したり、誰かに耕作を委託する判断をしたりする。そのいずれもなされずに、ただ放置されることもある。このようにして耕作放棄地が生じた場合、それは、この土地の所有者だけではなく、その土地のある地域全体の問題として認識されることがある。 過疎化が進行している農山漁村では、農地だけでなく屋敷地なども、所有者による手入れが十分にされなくなって荒廃するということが起きている。このように土地を所有する個人が、それぞれの事情によりその土地との関わりを継続することが難しくなった場合、地域コミュニティはこの問題にどのように向き合うことができるのか、2011年3月に福島県で起きた原発事故により長期間にわたって避難生活を送ることを余儀なくされた地域の調査を中心に検討した。 今年度は本研究課題の最終年度であり、聞き取り調査が不十分だと思われる項目についての補充調査と、これまでに収集したデータの整理、他の地域の事例との比較などをおこなった。 その結果、原発事故により、従来の土地とのかかわり方が困難になった地域では、土地とのかかわり方をめぐって、複数の異なる課題が生じており、それらの課題は時間の経過にともなって比重が変わってきていると考えられた。さらに、地域コミュニティはこれらの課題に対して物理的方法と認識的方法という2つの方法で向き合っていると考えられた。
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