本研究の目的は、少子高齢化が進行する日本社会で今後大きな課題となることが予測される遠距離介護において、高齢者本人の意思を尊重したケアを実現するために人々がどのような方法を用いているのかを解明することにある。最終年度においては、これまでの成果を発展的に統合する形での分析を試みた。その結果、以下のことが明らかになった。まず親を意思決定に関与させる位置は、多くの場合、離れて暮らす子供とケアマネジャーによる意思決定について合意が図られた後であることが明らかになった。これは、認知判断能力に、衰えが見られる親を意思決定に関与させるため、子供とケアマネジャーの意思決定の過程を反映させて、親の応答が行いやすくなるように、yes-no質問の形式での発話順番のデザインを実現するためであった。一方で、離れて暮らす子供とケアマネジャーの間で意思決定に何らかの対立が生じている場合には、いわば挿入的な形で、意思決定を行うための前提となる、親の生活の状況やサービスについて現状の確認が親に対して行われ、その応答に基づいて、離れて暮らす子供とケアマネジャーの間での意思決定に戻ることがわかった。ここでは、親の認知判断能力の衰えを配慮して、未来の意思決定を親に委ねるのではなく、親が答えやすい現状の認識を問うことで、遠距離介護の意思決定について親への負荷を下げながら、親を意思決定に関与させるという工夫がなされているのであった。以上の知見は、高齢者本人の意思を尊重したケアを遠距離介護の中で実現するための、人々の方法の一端であり、今後の遠距離介護支援を考えるための基礎的な意義と重要性を持つものと考えられる。
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