研究課題/領域番号 |
17K04202
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
山崎 由可里 和歌山大学, 教育学部, 教授 (60322210)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 少年教護法 / 少年教護院 / 児童鑑別 / 少年教護委員 / 少年教護院調査要項 / 八事少年寮 / 入退院規準 / 優生学 |
研究実績の概要 |
2020年度は(1)少年教護院における入所要件および院内での特別な処遇(2)杉田直樹(名古屋帝大教授・精神医学者)がドイツ留学中に見聞した「医師の関与する感化院」の特定、および彼が設立した非行障害児施設八事少年寮(愛知県から委託の少年教護院入所不可児童を受け入れた施設)に関連する資料分析(3)『少年教護時報』等の刊行物、国立武蔵野学院および大阪修徳学院所蔵の『柳成一文書』など、少年教護委員の具体的な活動内容に関する資料渉猟および分析(4)本研究の総括、を計画した。 (1)については学会発表(第79回日本教育学会研究大会)を行った。(2)については①杉田がドイツ留学中に見聞した「医師が関与する感化院」の特定には至らなかったものの、2019年度までに渉猟した資料の中にドイツの精神科医と犯罪・非行青少年(知的障害児を含む)への対処に関するものが含まれており、精神科医の対処は後の障害者「安楽死」計画にも影響を与えたこと、②ドイツを模した国民優生法(1940年)制下については不明であるものの、戦後日本の優生保護法制下において優生手術を施された教護院入所児童の例があること、などが判明した。これらについては、本研究に継続する研究課題のひとつととらえ、「人間の尊厳をふみにじった障害者『安楽死』計画」としてまとめた。また、所蔵機関(者)が皆無であり貴重な資料である『八事少年寮経営要録やごと』の影印本を作成した。(3)については、2019年度までの資料調査で国立武蔵野学院所蔵の『柳成一文書』は、大阪以外の少年教護委員の活動に関する内容も含まれていることを確認しているものの、コロナ禍により国立武蔵野学院での資料調査の遂行が不可能となり、武蔵野学院と大阪修徳学院所蔵の両『柳成一文書』を総合して検討することができなかった。以上、(2)(3)の課題遂行が不十分なため(4)本研究の総括に至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、(1)少年教護院における入所要件および院内での特別な処遇(2)杉田直樹(名古屋帝大教授・精神医学者)のドイツ留学中に見聞した「医師の関与する感化院」の特定、および杉田が設立した非行障害児施設八事少年寮に関連する資料調査と分析(3)『少年教護時報』『児童保護』等の刊行物、国立武蔵野学院および大阪修徳学院所蔵の『柳成一文書』など、少年教護委員の具体的な活動内容に関する資料渉猟および分析(4)本研究の総括を計画していた。 これらのうち、(1)については日本教育学会第79回大会で発表し、現在、英文論文の作成途中である。しかしながら、コロナ禍により、出張を伴う資料調査および資料収集が困難となり、特に(2)(3)の課題遂行が不十分なものになってしまった。 (2)については、2019年度から継続した課題であり、コロナ禍の様相を考えると渡独せずにできる研究方法を再考する必要があると考え、派生的なものであるけれども、研究概要に記したような研究成果をあげた。しかしながら、(2)の課題自体を遂行したとは言えない。また、(3)すでに影印本がある大阪修徳学院所蔵『柳政一文書』と比較して、国立武蔵野学院所蔵の『柳成一文書』については、2019年度までに所在調査と大まかな内容確認を行っているものの、資料分析を可能とするような影印本の作成や内容の精読はできていない。そのような資料的制約もあり、少年教護委員の実態についての分析は不十分なままである。そのため、本研究の1年延長を日本学術振興会へ申請した。以上により、本研究課題の進捗状況については(3)やや遅れている、と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症の収束まで数年かかるであろうことをふまえ、2021年度も国内外での新たな資料調査・資料収集はきわめて限定的になると予測される。そのような状況を鑑み、研究課題の遂行にあたっては、(1)現時点で収集している資料の精緻な分析、論文の作成、(2)直接訪問しなくても可能な資料調査・閲覧の模索、(3)次の研究課題につながる研究への着手に努めたい。(3)については、①障害児保護・障害児福祉施策に関わる、少年教護法(1933年)から児童福祉法(1947年)への継承・断絶の問題、②少年教護院における入院規準と児童福祉法が対象とした障害児の種類と程度との関連、③戦中・戦後における少年教護院・教護院と優生保護法との関連の検討などに取り組む予定である
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、出張を伴う資料調査および資料収集が困難となり、予定していた課題遂行が不十分なものになってしまった。2021年度も引き続き資料調査が困難な状況を鑑み、以下のような使用計画を立てる。第一に、これまで渉猟した貴重な一次資料のデジタル保存や影印本の作成、第二に、文書入力のための研究補助員への謝金、第三に、英語論文作成のためのネイティブチェック謝金、第四に、第一および二の用途に関連する記録媒体やファイルなどの物品の購入、第五に、旅費(資料調査が可能になった場合)、などを予定している。
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