研究課題/領域番号 |
17K04202
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
山崎 由可里 和歌山大学, 教育学部, 教授 (60322210)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 少年教護院 / 少年教護法 / 少年教護院調査要項 / 児童鑑別 / 入院規準 / 国立武蔵野学院 / 院内学級 |
研究実績の概要 |
2021年度は、総力戦体制下の少年教護院における①児童鑑別による児童分類の実態、②少年教護院の入院規準、③特別学級開設など、「精神薄弱」児や「性格異常」児など処遇困難な者への特別な指導、④院外教護や入院不可と鑑別された者の処遇、などについて、主に厚生省児童課『少年教護院調査要項』(調査実施は1940年)を手がかりに検討した。 その結果、①児童鑑別では、主に医師や心理士が知能検査を実施し、修学状況や家庭環境、窃盗など具体的な「問題行動」などをもとに総合的に判断(鑑別)して児童の処遇を決定していたこと、②少年教護院ではおおむね知能指数60以下を入所不可の規準としていたものの、実際にはそれよりも低い者が入院している例も散見され、施設の規模の大きい施設ほど、入院児童の知能指数の幅が広い傾向がみられること、③在院する「精神薄弱」児や「性格異常」児などへの特別な教育をほどこす例として、特別学級を開設した施設が存在したものの、それらは院医や心理士を配置した規模の大きな施設(100名以上)であり、少年教護院の大半を占める50名以下の小規模施設では、職員数も少なく、個別指導や特別学級開設など特別な処遇の実施は困難であったこと、④少年教護委員委託として院外教護の対象になる者は比較的家庭環境が良好なケースが多く、行動面での問題が顕著で処遇困難と鑑別された者は精神病院への入院および国立武蔵野学院へ送致されたことを明らかにした。また、精神病院への入院と鑑別しても、実際に児童を受け入れる精神病院は皆無であり、わずかに八事少年寮(愛知県。名古屋帝国大学教授杉田直樹が経営)が受け皿になっていたこと、などを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の影響により、2020年度の研究計画は当初の予定の3割ほどしかすすまなかった。そして、2021年度は2020年度に十分取り組めなかった作業を完了する予定であった。具体的には、これまで収集・リストアップした資料のうち、撮影や影印本作成ができず手元にないいくつかの物について、所蔵先である複数の児童自立支援施設に赴き、それらの内容を確認する予定計画を立てた。しかし、コロナ禍により施設訪問自体を控えざるを得なかった。 そこで、2021年度は研究成果をまとめるにあたり、社会事業関係雑誌やこれまで収集した影印本等をもとに論文を作成した。当初の研究計画は2年連続で見直しを余儀なくされたものの、これまでの研究成果を論文としてまとめることができたため、(2)おおむね順調に進展している、と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、前年度に引き続き、①『少年教護院調査要項』のほか、大阪府『少年教護施設拡充計画案』(1934年)、『児童保護』『社会事業』『社会事業研究』などの雑誌、②大阪修徳学院や国立武蔵野学院所蔵資料のうち、児童鑑別や院内での特別な教育指導に関係する論文・記事・調査等科学的な児童鑑別に基づく分類処遇と少年教護院内での特別な教育の実態などを明らかにする。加えて、児童の分類処遇の具体となる少年教護院の機能分について検討する予定である。また、資料調査が可能になれば、戦中戦後の少年教護協会および院外教護を担った少年教護委員らの動向を記録している柳政一文書(国立武蔵野学院所蔵)の閲覧・目録作成を行う。 具体的には、①科学的児童鑑別のオピニオンリーダーであった池田千年(兵庫県立農工学校長・精神科医)の児童鑑別論、②大阪府や国立武蔵野学院における少年教護院改革案、戦後まもなく少年保導法案を提案したた熊野隆治(大阪修徳学院長・国立武蔵野学院長)を中心とした特殊少年教護院構想を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果のまとめとなる論文を執筆にあたり、関東方面に所在する複数の児童自立施設所蔵の資料閲覧等をする予定であった。しかし、コロナ禍により施設訪問自体ができなかった。そのため、2022年度に予算を繰り越し、2022年度中に施設訪問を果たし、資料調査を行う予定である。
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