本研究の目的は、第一に、諸外国の高等教育の障害者支援の実態を把握し日本への示唆を得ること、第二に、諸外国の障害者ジェンダー統計の特徴や整備状況を資料等から把握することである。 これら二つの目的のもとで、最終年度にあたる2020年度は、「コロナ禍」により遂行できる作業が限られ、研究計画の再検討を必然的に迫られた。第一の目的に関しては、予定していた海外のフィールドワーク調査はすべて中止になり、また、海外でのインタビュー調査も先方の都合により実施不可能となった。また、日本だけでなく諸外国でも高等教育のオンライン化が急速に進み、実態を把握することが極めて困難となった。そのため限られた状況の中で研究遂行可能な第二の目的を中心に研究を進めることにした。そこで諸外国の中でも障害とジェンダーの視点が豊富なカナダの障害者ジェンダー統計を事例に検討した。ここでは、カナダの障害者ジェンダー統計の特徴を把握し、日本の障害者統計整備の課題を考察した。研究成果としては、「カナダにおける障害者ジェンダー統計整備の変遷と現状」(『社会福祉研究』第139号)を公表した。本稿では、①一国にどの程度の障害者がいるのかを把握すること、すなわち国別における障害者率を把握することが国際比較の際に必要であること、②カナダでは障害女性、男性ともに非障害者より学歴が低い傾向がみられ、とりわけ学士号以上の学歴を有している人は、障害男性・女性ともに障害のない男女の半分であることといったように非障害者との比較を行っていること、③カナダの障害者統計では、質問項目の作成から調査結果の分析に至るプロセスにおいて、一貫して環境要因にアプローチする社会モデルの観点を採用していることを明らかにした。
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