研究実績の概要 |
本研究においては、エンパワメントおよびリカバリーという文脈において、精神保健福祉サービスの利用者(以下、当事者)が主体的な服薬をおこなうのを可能にするプログラムの開発を目指すが、平成29年度においては、向精神薬の服薬、エンパワメント、リカバリーといった概念をめぐる文献の収集をおこなった。当該年度内に収集した文献のうち、最も深く本研究のテーマに関わるものは、Fisher, D. (2016). Heartbeats of hope: The empowerment way to recover your life, Lawrence, MA:National Empowerment Centerであった。とりわけ、同書におけるリカバリー概念が服薬における主体性について考える際に非常に重要であることがわかった。Fisherによれば、リカバリーとは、人が人間性を取り戻す過程であり、そのような過程は、人と人とが情動的なレベルで対等な関係においてつながることで展開されるものであるとされる。そして、そのようなつながりは対話的実践を通して実現するとされる。Fisherは、このようなリカバリーの動的な過程を、精神医療におけるモノローグ的で静的な言語と対置させている。 向精神薬の服薬における主体性を考える際に、それを、対話を基礎とするこのような動的な過程に深く結びついたものとして理解することで、主体性の性格を明らかにすること、そして、主体性を実現するための具体的な実践方法を明らかにすることが可能となることがわかった。 また、カナダのケベック州で開発された、向精神薬の服薬を自らの手で管理し、必要であれば減薬・断薬をおこなえるようになるためのアプローチ、GAMの第2版が出版(フランス語版)を入手することができた。
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