2021年度は、これまでの研究科を通して明らかにされてきたことをふまえ、カナダのケベック州及びブラジルにおいて展開されている、精神科治療薬を服薬している本人が主体的に服薬できるようになるためのプログラムであるGAM(Gestion Autonome de la medication)における要点を整理した。その際に、生活の質に焦点をあてるオルタナティブ運動という文脈、そして、権利に焦点をあてるアドボカシー運動という文脈、2つの文脈を重視し、二つの焦点が互いに結びつくような整理をおこなった。そして、わが国において、GAMを応用したプログラムを展開するための手引書案を作成した。具体的には、服薬当事者が自らの生活のありように目を向け、服薬が生活の質に及ぼしている影響を自覚するための項目を作成した。そして、一方で、精神医療における投薬をめぐる社会的状況を批判的にとらえる視点を身につけ、権利という視点から自らの状況をとらえることができるようになるための項目を作成した。また、そのようにしてできた手引書を実際に使いながら内容を改良していくことが重要であることが、これまでの研究より判明したため、手引書の使い方についても提案をおこなった。手引書を服薬当事者がひとりで使うだけでなく、グループのなかで共同的な学びのためのツールとして使うことで、手引書の内容がさらに深められていくと考えた。人びとの相互作用を通して、内容が修正されていく過程が展開されるような手引書であることを基本原理として位置づけた。
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