<重度知的障害者>への「ケア分配」において、ケア主体をめぐる議論に附帯する諸規範の地勢図を描くことを目的に研究を進めた。 この作業の過程において、家族のケア主体化への固定化によってもたらされる問題群として、1)負担の過剰、2)継続の不可能性、3)固定化による支配と管理、4)「ケア社会化」の抑制、5)専門的介入の必要性、の 5 つの問題群に整理しつつ、その内実を検証した。 次に、家族のケア主体化からの離脱をめぐって、「ケアする側」の文法とは異なる、もう一つの文法、すなわち、「ケアされる側」である障害当事者による障害者運動の文法における独自の問題認識である、「社会変革」への志向と、障害者の自立/自律的な生の獲得について検証した。そこでは、先ず、社会変革の志向に位置づけられる障害者運動におけるケアをめぐる多様な取り組みとして、1970 年代に活性化する、「青い芝の会」に象徴されるラディカルな障害者運動と、この「青い芝の会」と並行しつつ展開された、公的介護保障要求運動や全国公的介護保障要求者組合における介護の脱家族化、脱施設化、脱商品化へ向けた取り組み、さらには 1980 年代後半から隆盛を見せる自立生活センター(CIL)における「ケアの商品化」をめぐるケア戦略に焦点を当てて、これらの取り組みにおいて提示されたケアをめぐる諸規範を検討した。 このように、家族のケア主体化への固定化をめぐって、「ケアする側」「ケアされる側」それぞれの問題認識と、その問題解消に向けた取り組みとそれを支えた規範の内実を検討したうえで、さらに、家族ケア主体に代替するケア主体として提起されてきた 6 つのケア主体、すなわち、入所施設、市民、CIL、ホームヘルパー、グループホームを取り上げ、それぞれの取り組みの実態と、その取り組みにおいて明示された規範を検証した。
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