研究課題/領域番号 |
17K04236
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研究機関 | 弘前学院大学 |
研究代表者 |
小川 幸裕 弘前学院大学, 社会福祉学部, 教授 (90341685)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 独立型社会福祉士 / 包括的相談支援体制 / アドボカシー / コーディネート / 法定後見活動 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、因子分析で抽出した独立型社会福祉士によるコーディネート活動を構成する「住民支援活動」「アドボカシー活動」「専門職支援活動」「行政支援活動」「資源開発活動」の5つの因子に影響を与えている関連要因を明らかにすることを目的に、個人特性を独立変数に設定し、抽出された各因子スコアを従属変数とする重回帰分析を行った。重回帰分析では、いずれのスコアにおいても決定係数が非常に低い結果となり各スコアを説明できる大きな要因を明らかにできなかった。今回調査した個人特性は、各スコアに大きな影響を及ぼしていなかったが、各スコアと有意な関連が示された個人特性として「年収」が確認された。「年収」は、「住民支援活動」スコア、「アドボカシー活動」スコア、「専門職支援活動」スコア、「行政支援活動」スコアとの関連が確認された。 独立型社会福祉士の活動課題として対価確保および経済的安定とソーシャルワークのバランスが指摘されており、コーディネート活動は対価につながりにくい活動であるため、独立型社会福祉士がコーディネート活動を行ううえで事業運営が経済的に安定していることが重要になっていると考えられる。また、独立型社会福祉士のコーディネート活動を支える「アドボカシー活動」では、「年収」のほかに「年齢」「人口規模」との関連が確認された。「年齢」は年齢を重ねることによる個人的なライフイベントの経験が地域住民や多様な支援関係者との関係形成や協働を図るうえで重要な要素となっていると考えられる。「人口規模」は過疎地域よりも都市で社会資源が豊富であるためコーディネートの基盤となるネットワークを形成しやすいことが影響していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、包括的な相談支援体制での独立型社会福祉士によるコーディネート活動の有効性を量的研究と質的研究から検証することを目的としている。独立型社会福祉士を対象としたアンケート調査から、独立型社会福祉士の実態把握をおこない、コーディネート活動を構成する「住民支援活動」「アドボカシー活動」「専門職支援活動」「行政支援活動」「資源開発活動」の5つを抽出し、各支援活動をアドボカシー活動が支えていること、これら5つの活動との主な関連要因として「年収」を確認した。また、独立型社会福祉士のコーディネート活動においてアドボカシーが重要な概念となっていることに着目し、ソーシャルワーク領域におけるアドボカシー概念の海外比較から、アドボカシー概念を「本人へのエンパワメントによって本人意思を表明する力や解決する力、解決に必要な様々な支援を活用する力を高めることを支援するとともに、支援関係者と本人意思の把握・共有をはかり、本人とともにまたは代理として環境改善を図るプロセス」と操作的に定義した。 アドボカシー概念を中核とするコーディネート活動プロセスを抽出する場面として法定後見活動を取り上げ、これまで実施したインタビュー調査のうち3年以上の事業実績、50歳以上、活動地域の人口規模10万人以上の独立型社会福祉士を対象に質的検討を行った。結果、独立型社会福祉士によるコーディネート活動の特徴として、住民支援・専門職支援・行政支援をおこなう「場」としてチームとネットワークが形成されていることが確認された。日常業務をとおした地域住民・専門職・行政との信頼関係を基盤に形成されたチームとネットワークの「場」は、人と社会資源をつなぐ機能にくわえ、本人意思を特定の支援者だけで把握するのではなく地域住民を含む支援関係者で把握・共有・支援する機能をもつこと、本人だけでなく支援者も支えられる機能をもつことが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、独立型社会福祉士によるインタビュー調査から、独立型社会福祉士のコーディネート活動の実践事例の検討から事例の類型化をおこなう。そして、アンケート調査とインタビュー調査の結果をまとめ、研究の総括をおこなう。 具体的には、インタビュー調査によるデータ収集と分析をおこなう。インタビューの対象の選定とプレ調査を終えているため、調査依頼および実施は円滑におこなえる予定である。調査対象は、成年後見活動においてコーディネート活動およびアドボカシー活動をおこなった経験がある独立型社会福祉士5名(3年以上の事業実績、50歳以上、活動地域の人口規模10万人以上)を予定している。インタビューデータの分析は、質的データ分析ソフトMAXQDAを用いる。インタビューデータの分析から、独立型社会福祉士の実践事例の類型化をおこない、これまでの量的研究と質的研究の成果をまとめ、成果報告書の作成をおこなう。 令和4年度における研究の流れは、5月~6月:インタビュー調査の依頼、6月~9月:インタビュー調査の実施、10月~12月:インタビューデータの分析、1月~3月:まとめ及び報告書の作成とする。 令和3年度に行う予定であったインタビュー調査の実施および分析が令和4年度に持ち越されたことで、最終年度である令和4年度は、インタビュー調査と研究の総括をおこなう予定であるが、既に調査対象の選定および調査依頼は終えていることから、現在の遅れには対応が可能である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度内に独立型社会福祉士へのインタビュー調査の実施およびデータの分析を行う予定であったが、新型コロナウィルス感染症の影響によりインタビュー調査が行えなかったことから、インタビュー調査で使用する予定であった旅費および備品などに関する費用を次年度に使用することとなった。 令和4年度の使用計画は、令和元年度に実施できなかったインタビュー調査(リモートを含む)で使用する備品(ICレコーダー、データ解析ソフト、ビデオカメラ、インクトナーなど)として約40万円、インタビュー調査の旅費(北海道、青森県、岩手県、大阪府、広島県、大分県など)として約40万円、研究成果の報告に係る会場までの旅費(東京都、大阪府など)として約30万円、成果報告書の印刷・製本および配送料として約20万円を予定している。
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