研究課題/領域番号 |
17K04240
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研究機関 | 文教大学 |
研究代表者 |
森 恭子 文教大学, 人間科学部, 准教授 (10331547)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 文化的コンピテンス / 移民・難民の支援 / 社会統合 / 社会的結束 / 定住 / 多文化共生 / ソーシャルワーク |
研究実績の概要 |
昨年度は、豪州(シドニー)および英国(ロンドン)の海外調査を実施し、主に教育者・研究者及び実践者を中心に、移民・難民の定住・統合プロセスおよびソーシャルワーク教育と実践について聞き取り調査を実施した。豪州のシドニー大学の教育では「文化的コンピテンス」が重視されている印象を受けた。学内には「文化的コンピテンスセンター」があり、学内外での文化的コンピテンスの啓発活動が展開されている。同大学の教育・ソーシャルワーク学部では、文化的コンピテンスのルーブリック(学生の学習到達度の指標)が作成され、教員に配布されている。豪州ソーシャルワーカー協会のガイドライン及び倫理綱領では、文化的コンピテンスに関連する記述があり、同大学の実習教育にも反映され、実習先には移民・難民支援団体も多数存在していた。文化的コンピテンスは、差別・偏見などの社会的排除を軽減し、社会公正と結びつき、社会的結束を高めると理解されているようであった。一方、英国では、英国ソーシャルワーカー協会の関係者らから移民・難民のソーシャルワークの現状を聞くことができた。英国では、児童と成人での対応が大きく異なり、児童については外国籍や滞在資格の有無に関係なく、公的機関のソーシャルワーカーが支援するが、成人については消極的となり、とくに難民申請者の支援では、児童から成人への継続的支援が断絶されることが問題視されていた。ソーシャルワーク教育については、ゴールドスミス大学の児童家庭福祉専門の教員によれば、既に専門分野の教育の中で、文化や多様性の考えを内包し教えているということであった。 多文化主義政策を提唱してきた移民社会である豪州と、同じく多様性な社会ではあるが統合政策を推進している英国では、教育と実践において差異がみられた。豪州で強調された「文化的コンピテンス」は、本研究の重要なキー概念としての示唆を提供した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の一年目の計画通り、第一次海外現地調査は、豪州と英国の二国の教育・研究者を中心に聞き取り調査を実施することができた。豪州については、シドニー大学を中心に、移民・難民のソーシャルワーク教育・実践で重視される「文化的コンピテンス」の理解が深まったといえる。「文化的コンピテンス」については、当初は、余り関心を払っていなかったが、統合プロセスにおいて、受入れ国側の国民への異なる文化への理解や尊重が、社会統合や社会結束と密接に関わっているという気づきを得ることができたことは本研究において有用であった。また現場の実践団体(3団体)から、定住支援の話を聞いたり、難民当事者との活動に同行したり等、具体的な現場も状況も垣間見ることができた。しかし英国については、研究者の初めてフィールド調査のために、調査協力者を得ることに難航し、現地でも協力者を調達することになった。結果的には、英国ソーシャルワーカー協会および保健福祉省の職員から、英国ソーシャルワーク全般および福祉政策の動向に関する話を聞き、本研究の基礎材料を得ることができたことは有意義であった。 一方、日本国内の第一次調査としては、春日部市の日本語教室に定期的に関わり、参与観察をしたり、直接的な学習支援に関わる地域のボランティアの方々との話し合い等を通して、外国人の子どもの支援の課題を整理することができた。しかし、それ以外の関係者・団体や自治体については、聞き取り調査を実施できなかったことが反省点としてあげられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の二年目である本年度については、第一次海外現地調査を踏まえ、第二次海外調査を実施する予定である。英国については、調査者が英国に十分に精通していないこともあり、移民・難民の支援の現場への調査協力のアクセスが難しく、また定住・統合プロセスを意図したソーシャルワーク教育や実践の情報を十分に得ることができなかったことから、第二次海外調査は、豪州を中心に実施することを検討する。とくにシドニー郊外のフェアフィールド市の定住・統合プロセスの実際について聞き取り調査を行う。一次調査により、フェアフィールド市の街案内をされる機会を得ることができ、また調査協力者からフェアフィールド市の定住行動計画(2017-2019)の資料を入手できたので、それを元に本市の自治体職員や関係団体から実施状況や課題について聞き取り調査をすることを考えている。 一方、日本での調査では、一次調査では十分に調査ができなかったので、二次調査において、越谷市や草加市などを中心に、自治体や国際交流協会、地域支援団体、エスニック・コミュニティ、当事者、教育関係者など幅広くコンタクトをとり、外国人の定住・統合プロセスにおける課題を聞き取る予定である。 なお、第一次海外現地調査の研究成果として、「文化的コンピテンス」の話題について、神奈川県社会福祉士会横浜支部主催のセミナー(2018年5月27日開催)で、「ソーシャルワークと異文化」をテーマに、主に現場の社会福祉士を対象に成果の一部を報告する予定である。また、本学の研究紀要に「文化的コンピテンス」関する研究論文を掲載することを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、二度の海外調査を実施したが、豪州での宿泊については、知人宅を利用したために宿泊費が不要だったこと、および英国では宿泊費と航空運賃のセット料金であったために、予定の支出額よりも、かなり低い金額でおさまった。また、国内での調査の交通費や調査協力に関わる経費がかからなかったこと、当該年度には、必要な書籍の注文が間に合わなかったこと、物品については研究者の所属機関で大半を賄えたことなどが、余剰分の金額が発生したことに影響している。 次年度も同様に海外調査を実施する予定であるが、前年度よりも長期滞在することを予定している。また、国内外について聞き取り調査の調査協力者も増えることが想定される。そのために余剰分は、宿泊費や調査協力費の増加分に充当することを検討している。またデスクトップコンピューターが老朽化しているため、新規の購入も考えている。
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