研究課題/領域番号 |
17K04240
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研究機関 | 文教大学 |
研究代表者 |
森 恭子 文教大学, 人間科学部, 准教授 (10331547)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 定住支援 / 社会統合政策 / 移民 / 難民 |
研究実績の概要 |
豪州(主にフェアフィールド市)およびスウェーデン(主にウプサラ市)の海外調査を実施し、地方自治体、警察、学校、支援団体、エスニック・グループ、移民・難民当事者など幅広い人々から、移民・難民の定住・統合プロセスにかかわる実践・政策についての聞き取りを行った。 豪州のフェアフィールド市は移民・難民を多く受け入れており、さまざまな公的機関、民間支援団体・エスニック・グループが連携協働して支援に取り組んでいる印象を受けた。フェアフィールド市の定住行動計画(2017-2019)策定は、民間支援団体(Coreコミュニティ)のイニシアチブの下で策定されたが、策定過程では、公私の多様なアクターの協働参画が図られ、定住支援のためのそれぞれの役割が明確にされたということであった。また警察署が、犯罪防止の観点からも、民間支援団体と連携しながら移民・難民との交流の場を設け積極的に取り組んでいた。当事者の話では、支援においては、移民・難民の強みを生かし自立につなげていくストレングスアプローチの重要性を認識することができた。 一方、スウェーデンのウプサラ市では、市の社会統合に関する取り組みについて、市役所、公立図書館、公立学校関係者等から話を伺った。ウプサラ市は首都ストックフォルムから電車で40分程度の都心からの通勤圏となりつつあり、人口が増加し急速な開発が進んでいる地域である。ウプサラ市の場合は、市および公立学校が中心となり、無料できめ細かい語学支援を提供している。また、市役所職員が移民・難民へのより良いサービスが提供できるように、職員研修プログラムに積極的に取り組んでいた。図書館では、移民と地域住民が交流できるプログラムを提供していた。総じて、ウプサラ市では、地方自治体がリーダーシップを発揮して、移民・難民の定住支援・社会統合政策を推進していたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の二年目の計画通り、第二次海外現地調査は、豪州の一つの地域(フェアフィールド市)に焦点を絞り、現場の多様なアクターから定住支援・統合政策について聞き取り調査を実施することができた。また、加えてスウェーデンでもウプサラ市を対象に、市の取組について職員から話を聞くことができた。人口規模が15~20万人で、都心に近い郊外型の両市を比較することができたことは本研究にとって有用であった。定住支援・統合政策について、既に多文化社会が成熟している豪州のフェアフィールド市は、行政(NSW州を含む)と民間の協働で進められ、他方、急速な難民受け入れにより対策を迫られているスウェーデンのウプサラ市は、行政指導型で進められており、本調査によって二つの異なる方策が垣間見ることができた。 フェアフィールド市調査では、NSW州が提供する難民支援団体(STARTTS)の職員のコーディネートおよび当団体が開催した難民フォーラム(行政、民間団体、当事者が参加)のおかげで、短期間の滞在にもかかわらず、多くのアクターや当事者に会う機会を得て、定住支援・統合政策に関する多くの資料・情報を得ることができた。ウプサラ市調査では、地元の通訳・コーディネーターを採用したことにより、短期間で効率よく現場を回ることができた。ただし、今回の現場調査では、ソーシャルワーカーの資格を持った人々には会うことはほとんどなかった。本研究は移民・難民の定住・統合プロセスとソーシャルワーク実践との関わりを模索しているため、その点について今回の調査と十分関連付けて検討していかなければならない。 他方、国内調査は、継続的に春日部市の子どもの日本語教室に定期的に関わり、地域のボランティアおよび学習支援に関わる学生たちの話を聞き課題の整理を試みている。また外国人の子どもの学習・生活支援を行っている先駆的な民間団体に支援の課題を聞くことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年にあたる三年目では、まず、第一次・第二次海外調査から得た情報を整理・分析する予定である。第一次海外調査では、主に「文化的コンピテンス」や「ダイバーシティ(多様性)」に関するソーシャルワーク教育に関する事柄、第二次調査では、定住支援・社会統合の取り組みとして、行政と民間の協働連携、地方自治体の役割、学習支援の仕組み、ストレングスアプローチなどをキーワードとしてまとめていくことを考えている。ただし、今回は定住・統合プロセスで重視される就労支援の現場を調査することができなかったため、それについては文献等で捕捉する必要がある。 一方、国内調査は、引き続き春日部市の子どもの日本語教室に継続的に関与していくが、その中で学習支援とともに生活・自立支援に向けた課題解決に向けて、具体的に関係者・機関と連携を取りながら、外国人の定住・統合プロセスにおける支援体制のあり方やそれぞれの役割を検討していきたい。アクションリサーチのスタイルをとり調査研究を進めたいと考えている。 海外調査と国内調査を踏まえ、移民・難民の社会統合プロセスにおけるソーシャルワークの理論・実践の枠組み、また日本の実情に即し、滞日外国人及び難民に対する定住・統合プロセスにおけるソーシャルワーク実践モデルの試案について報告書を作成する。 なお、本研究の成果の一部は、日本女子大学学内学会(6月29日)、群馬県社会福祉士会のソーシャルワーカーデーイベント(7月14日)において、外国人支援とソーシャルワークに関するテーマで話をする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の海外調査(スウェーデン)が3月に実施されたために、それに関する支出を次年度に計上することになったため。
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