本年度は、フランス「社会保障の父」と称されるピエール・ラロック(Pierre LAROQUE)の社会保障理論がなおも息づいていると思われる現行制度(とりわけ家族給付制度)の側面について、考察を進めた。研究を通じて得られた主な知見は、下記のとおりである。 (1)政権発足以来、失業問題が深刻化する一方だったオランド大統領は、「責任・連帯協定(pacte de responsabilite et de solidarite)」の締結を雇主層に提言し、労務コストの軽減と引き換えに雇用増大をもたらす方針を打ち出した。2015年に発効した「責任・連帯協定」により、労務コスト軽減策の一環として家族給付の主要財源である雇主拠出を部分的に引き下げる改革が断行されたのであった。 (2)オランド改革を経てもなお、フランス家族給付制度の伝統的特徴は維持されている。すなわち、拠出面においては、家族給付の財源を主に雇主の拠出負担によって調達するという特徴が維持されており、例えば2018年度の総収入は約503億9600万ユーロであり、そのうちの58.1%に相当する約292億8400万ユーロは雇主拠出によって調達されていた。P. ラロックは1970年刊行の Les grands problemes sociaux contemporains (fascicule 2)において、「家族給付は拠出金によって財源調達されており、(中略) 受給者の雇主の拠出―これは最も頻繁に見られる事例であり、とりわけフランスやベルギーにおいて見られる―によっている」と述べている。財源構成が変更されてきた現行の社会保障制度においてもなお、ラロック理論が息づいている側面を確認できる。 今年度の研究成果については、論文として取りまとめ、『経済学論纂』第61巻3-4合併号(中央大学)にて公表した。
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