研究課題/領域番号 |
17K04262
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
岩崎 香 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (20365563)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 障害者 / ソーシャルワーク / 差別解消 / 合理的配慮 |
研究実績の概要 |
今年度の研究においては日本における障害者差別がどういう社会構造の中で引き起こされてきたのかを検討するとともに、合理的配慮への理解を中心に障害者差別解消法の設立課程を追った。少子高齢化や経済の低成長は日本独自の福祉社会の形成を余儀なくしており、障害者の権利条約の批准という国際的な課題への対応もあいまって、障害者差別解消法が成立した。障害者差別解消法では、差別の禁止と合理的配慮の不提供の禁止(民間事業者は努力義務)を定めており、自治体や事業者はその対応を求められているのである。しかし、申し出がないものには対応しない点、関節差別を含んでいない点、罰則が緩いという点、過重な負担を除外するというが何が過重な負担なのかが明確にできていない点など課題を多く含んでいる。また、地域住民個人には何の拘束力もなく、結果として周知も進んでいない。差別禁止に関しては、障害のあるアメリカ人に関する法律(ADA法)が先んじていることから、ボストン、ニューヨークにおいて障害者の置かれている状況を調査したが、あらゆる機能障害への対応が示された点やADA法が国民に広く周知されている点などが日本と大きく異なっていた。もともと合理的配慮は1970年代のアメリカで誕生し、1973年に制定されたリハビリテーション法で使用され、各国の障害者差別禁止法制定に大きな影響を与えた。日本では、2011年の障害者基本法改正時に初めて盛り込まれた。日本において、ミクロ領域である個別サービスに関しては、合理的配慮という概念が理解されつつあるが、マクロ領域においては地域共生社会実現という大きな課題の前に立ちすくんでいるのが実情である。文献研究と、アメリカとの比較から、その要因として、①日本人の持っている価値観、②隔離収容政策、③障害者の意思表明の遅れなどが社会モデルや合理的配慮の国民への浸透を遅らせたのではないかと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定では、障害者や家族を対象とした差別や合理的配慮の提供、不提供に係るアンケートを実施する予定であったが、予定していなかったアメリカでの調査を優先したため、今年度の実施となる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の成果を念頭に置きつつ、自分の状態を説明することが難しかったり、まだ十分に周知が浸透していない障害領域(精神障害、知的障害、発達障害、難病、高次脳障害)の人を主な対象とした調査を実施する。法律そのものへの評価などの他に、差別や合理的配慮の不提供、あるいは合理的配慮を提供してもらった具体例を収集し、どういう状況でどういう対応が行われ、その対応に関してどう感じたかということを中心にデータを収集する。 また、同時にサービスを提供している事業者にも調査を実施する。実際に障害のある人にサービスを提供している方を対象に、サービスを提供して差別、合理的配慮の不提供だと認識されたり、合理的配慮を提供したことによって感謝されたり、逆に快い反応が返ってこなかった等の詳細な状況を事例として収集し、共通する状況と業種、対象による相違などを探れればと考えている。 最終年度には、差別・合理的配慮の不提供が生じるプロセスを整理し、サービス提供者と障害当事者の間の一致点と認識のズレ、及びその要因に関する検討を行うことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画では、平成29年度に障害当事者・家族への調査を予定していたが、思いがけずアメリカでの調査の機会を得ることができ、当事者・家族への調査を今年度に持ち越すこととなったため。
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