今年度は、研究全体の総括としてこれまでの調査から得られた結果の再分析、及び成果発表としてセミナーを行った。インタビューデータの詳細な分析を行った結果として、長期的支援へのあきらめと不安や課題の抱え込み、医療・福祉への不信とサービス利用拒否、親(定位家族)との関係性、自身の高齢期の生活をイメージすることに消極的、ゲイコミュニティへの期待と地域コミュニティへの帰属意識の低さ、支援者側がはらむジェンダーバイアス、カミングアウト(セクシュアリティ、感染症)の内容といったキーワードを抽出した。これらの要素は相互に関係し、職場での同僚といった社会生活上最低限必要な人間関係と当事者同士の繋がり以外の「他者」との関係構築に不慣れとなること、高齢期において生活課題に直面した際にもフォーマル、インフォーマルなサポートを活用することにも消極的(時に拒否的)なイメージを持つと示唆された。 最終成果発表として、オンラインセミナーを開催した。在宅で生活するHIV陽性のゲイ男性を支援する医療ソーシャルワーカーとNPO法人でボランティア支援を行っている看護師の2名のシンポジストとともに、現行の公的サービスの限界を振り返り、当事者を地域でサポートする現状と課題、展望を論議した。医療ソーシャルワーカーや福祉職など、約20名の参加者からの質疑応答を含む活発な議論となった。 高齢になっても、誰もが住み慣れた地域で自分らしい生活を最後まで続けることができることを目指している地域包括ケアシステムの構築であるが、その推進においては、シスジェンダーなどのセクシャル“マジョリティ”と定位家族を中心とした家族観が前提となっている。現在の在宅福祉サービスの限界を見直し、それらを補完する多様な社会資源の創出とネットワークの一例を示した意義は大きいと考える。
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