研究課題/領域番号 |
17K04302
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研究機関 | 国立保健医療科学院 |
研究代表者 |
松繁 卓哉 国立保健医療科学院, その他部局等, 主任研究官 (70558460)
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研究分担者 |
牛山 美穂 慶應義塾大学, 文学部(三田), 特別研究員(RPD) (30434236)
孫 大輔 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (40637039)
三澤 仁平 日本大学, 医学部, 助教 (80612928)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 患者視点 / 当事者視点 / 医学教育 / 対話 / セルフケア |
研究実績の概要 |
研究計画の初年度である平成29年度は、研究代表者・研究分担者が、それぞれの研究計画に沿ってプロジェクトの土台となる基礎作業を遂行するとともに、年度中4回の定例研究会議(5月,8月,10月,30年1月)と、1回の公開研究会(30年3月)を実施し、各分担研究の進捗を確認するとともに、研究知見の一部について市民との対話の中で精査していった。この公開研究会では、「不確実な〈患者視点〉を医学教育に活かすには」というテーマを設定し、1年間の研究成果をふまえながら、これを教育現場で活用していくための方策を、様々なバックグラウンドを持つ一般参加者(教員、学生、患者団体関係者、医療従事者、企業職員、その他)からの意見収集とディスカッションによって検討するなど、今後の研究の進展にとって有意義な機会となった。 また、研究班のメンバーを中心に開催した「患者視点」について学習する公開ワークショップの結果報告が、日本医学教育学会の学会誌『医学教育』48巻5号(2017年11月)に掲載された。この報告の中では、従来の「患者視点」を取り巻く状況の問題点が明示され、これを克服するための新たな手法について検討がなされた。医学教育のコアカリキュラムが大きく見直されている現在、学際性に富む本研究班からの問題提起は、医学教育の実践者・研究者らから高い評価を得た。 具体的な進捗としては、保健・医療・福祉における「患者視点」「当事者視点」を理解するための既存の知見/ツール/理論等の体系的整理と批判的検討が進められ、第2年目から開始される実証研究へ向けての基盤整備が完成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である平成29年度は、本研究のキーワードである「患者視点」に関して、既存の理論・既存の実践を批判的にとらえなおし、先行研究の限界を明確にして、次年度以降の研究の土台とするところに目標を置いてきた。「研究実績の概要」で述べた通り、公開型の企画と定例の研究会議を重ね、研究班員の間で知見を照らし合わせていく中で、上記の目標は着実に達成されていった。 毎回の定例研究会議(5月,8月,10月,30年1月)では、研究班員による進捗報告のほかに、研究の一層の進展を図るための新しいアイデアを出し合い、実現可能なことから速やかに実行していくこととした。「研究実績の概要」の欄で示した公開型の企画は、こうしたアイデア出しの中から生み出され、当初の研究計画では予定していなかった知見の獲得につながった。具体的には、今後の実証データの分析に基づく「患者視点」の理解のためのプログラム開発・評価の手続きにおいて、患者・生活者側との対話の中でこの手続きの「妥当性」を精査していくアプローチを構想する端緒を得ることができた。 また、研究代表者松繁が、日本保健医療行動科学会の要請により、同学会の第32回学術大会(於.亀田医療大学)の招待講演「セルフケア/セルフマネジメントの支援をめぐる今日的課題」で本研究課題の成果の一部、とりわけ病の当事者によるセルフケア/セルフケアを支援する新しい方法論に関する整理について紹介し、社会学・社会福祉学分野以外にも、臨床心理等のヒューマンサービス領域の実践者・研究者らから大きな関心を寄せられたことは、本研究を進めていくに当たっての大きな弾みとなった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度である平成29年度は、研究計画にもとづいて順調な進展が得られた。基本的には、30年度以降も計画された手順に忠実にしたがいながら、確実に研究を進めていくことを予定している。推進方策としては、研究のゴールとして設定されている「患者視点理解のためのプログラム開発」を着実に進めていくために、医師・看護師・社会福祉士他、保健・医療・福祉の対人援助従事者らとの協働の機会を(計画どおりに)進めていくことである。ここでは、研究分担者の孫による共感能力を評価する尺度に関する研究知見や、研究分担者三澤による主観的健康観・健康不安に関する研究知見、研究分担者牛山による「患者の知」「多元的な治療言説」に関する研究知見、研究協力者畠山による診療ガイドライン作成における患者視点の導入に関する研究知見、研究代表者松繁による「lay expert」「patient expertise」に関する研究知見を統合することで、研究班の学際性を最大限に活用した成果の獲得が可能になる手続きを経ていく。 プログラムのプロトタイプを製作したあとは、その試験的運用を重ね、精度を評価していくことを計画している。この作業では、研究代表者松繁が所属する、保健・医療・福祉の実務者養成機関である厚生労働省国立保健医療科学院の施設環境や、研究代表者孫が所属する東京大学医学教育国際研究センターの環境を用いることで、上記の「試験的運用」が可能になるという、本研究班ならではの強みを最大限に活かす。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度である平成29年度は、研究課題である患者視点の理解のための既存の知見・既存のプログラムを批判的に検討し、課題点を整理することを目標として設定した。このため、主たる用途は文献の収集と基本的な消耗品の購入等に限られていたが、研究班員の所属機関の有する文献ソース等へのアクセス手段を活用することで、文献収集に関しては、当初想定していたよりも支出が抑えられた。 今後の使用計画としては、実質的な実証データの収集等に着手する平成30年度以降に研究協力者への謝金や成果公表のための学会発表等に係る旅費等が必要となることから、順当に予算執行がなされることが予定されている。
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