研究課題/領域番号 |
17K04302
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研究機関 | 国立保健医療科学院 |
研究代表者 |
松繁 卓哉 国立保健医療科学院, その他部局等, 上席主任研究官 (70558460)
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研究分担者 |
牛山 美穂 大妻女子大学, 人間関係学部, 准教授 (30434236)
孫 大輔 鳥取大学, 医学部, プロジェクト研究員 (40637039)
三澤 仁平 日本大学, 医学部, 助教 (80612928) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Deliberation / ダイアローグ / 納得 / ピア・サポート / 患者視点 |
研究実績の概要 |
2020年度は、本研究課題の仕上げの年として、患者視点の理解と臨床活用のためのプログラムの実践に従事した。研究代表者の松繁が所属する国立保健医療科学院では、保健・医療・福祉の実務者教育を実施しており、その中で、患者視点理解のための本研究の知見を活用した教育プログラムを行った。具体的には、都道府県・政令指定都市が設置する「難病相談支援センター」の職員向けの研修の中で、患者の経験・考え・視点等が、他の患者にとっての有益な資源となる「ピア・サポート」に着眼し、ピア・サポートを充実させるためのポイント・工夫・留意点などについて学習することのできるプログラムを実施し、受講者の感想・習熟度・課題点等について、アンケート結果から分析を行った。分析結果を、今後、現行プログラムのさらなる質の向上に向けて活用していく。 研究分担者であり総合診療医の孫は、患者視点の理解のアプローチとしての「ダイアローグ」に関する研究に基づき、ダイアローグを応用した臨床実践を展開してきた。これら実践から得た知見は、研究班において共有・検討され、開発プログラムの精査に用いられた。研究分担者であり人類学所の牛山は、本研究班が患者視点の理解における鍵概念として重視する「納得」について、アトピー性皮膚炎患者の語りを収集・分析する作業を継続している。定例の研究班会議の中で、それらの知見を共有し、患者の「納得」を可能にする臨床実践のあり方について整理している。 上記の成果を取りまとめ、広く臨床実践者や研究者らに公開するために、第47回日本保健医療社会学会大会へ、ラウンド・テーブル・ディスカッションの企画としてエントリーし、採択された(開催は2021年5月16日)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題の初年度(2017年度)より、患者視点の理解のためのアプローチについて、実践面・制度面・理論面から現状の課題の可視化に取り組み、第2年度・第3年度で、具体的に “dialogue”(対話)および “deliberation”(熟考)の基本特性を骨子とした、新たな支援アプローチの枠組みを完成させた。これについては、2019年に査読付きの論文「医療者教育における「患者視点」に付随する諸課題と熟議アプローチの可能性」(保健医療社会学論集29 (2))で発表し、各所より反響を得た。ここで重視しているのは、近年の「問題解決アプローチ」や「意思決定支援アプローチ」とは異なり、「解決」や「決定」を前提とせずに、困難の只中にある当事者にとって、自らの内面を整理し、思考を整理することである。また、当事者と支援に従事する者との間の視点や優先事項のズレ(の可能性)を解消することを目的とした相互理解に焦点を当てているところに特徴がある。 2020年度は、研究知見について「教育」という観点からプログラム化に向けた作業を進めた。具体的には、保健・医療・福祉の専門職従事者と、近年、ますます果たす役割に期待が大きくなっている患者同士のエンパワメント「ピアサポート」の担い手であるピアサポーターへの育成プログラムの構築に取り組んできた。「治癒」や「寛解」を目的としたサービスでは、「問題」を「特定」したうえで、「最良」と考えられる「解決法」を定め、目的に向けて直線的に進むことを想定するところに特性がある。本研究が開発に取り組むプログラムでは、そうした「問題解決」に向かうアプローチの意義・貢献は認めつつも、近年ますます社会において顕在化する「生きづらさ」を抱えながら、支援の枠組みに乗りにくい人々に対する新たな支援アプローチとして位置づけをしながら、内容の精査・仕上げの作業を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画では、保健・医療・福祉の従事者らを対象に患者視点理解のための実践と教育のプログラムの実施を繰り返し、フィードバックの情報を収集・分析していきながら、内容の精査をはかることが予定されていた。この点については、2020年度、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が少なからずあり、精査・検証の作業は限られた範囲内で実施することとなった。1年間の延長が承認されたため、与えられた延長期間内に、検証作業と成果発表を深め、研究を推進していく。 まず、検証作業については、既に研究代表者松繁、研究分担者孫らが所属機関において取り組んでいるが、今後は、これまで以上にZoom・Microsoft Teamsなどのリモート・コミュニケーションのツールを活用しながら推進していく。研究代表者松繁と研究分担者牛山は、保健・医療・福祉の利用者側にある「患者」「障害の当事者」にインタビュー調査を続けている。調査協力者保護の観点から、2020年度当初はインタビュー調査の遂行が見合わせられる場面が発生したものの、その後、リモート機器の活用により調査は再開されており、今後も作業を加速させていく。 成果発表についても、学会発表・論文投稿のかたちで精力的に進めていく。2021年5月には、研究班員全員によるラウンドテーブルディスカッションの企画が第47回日本保健医療社会学会で採択され、保健医療分野の専門職従事者・研究者らが多数参加の中、行われた。既存の支援アプローチの課題をふまえて、本研究が取り組んできた患者視点理解のプログラムが大きな関心を持って迎えられたことが確認され、残る延長期間における成果発表にむけて弾みを得た。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、新型コロナウイルスの感染拡大のため、当初予定していたインタビュー調査を伴う出張を見合わせる事態が発生し、これにより旅費及び謝金の予算執行額が減少した。また、成果発表を目的とした学会参加のための出張も、学会がオンライン開催となるなど、当初見込んでいたような旅費・その他の予算執行額には達しなかった。 2021年度は、積極的にリモート機器を使用したデータの収集(インタビュー調査を含む)の他、成果発表を目的としたオンラインによるシンポジウム、ワークショップ等の開催を計画しており、研究費の有効活用が見込まれている。
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