研究課題/領域番号 |
17K04309
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
若林 明雄 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 教授 (30175062)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 社会的認知能力 / 個人差 / 視線サイモン効果 / 脳皮質活動 / 認知スタイル |
研究実績の概要 |
サイモン効果は,位置・方向認知における自動的な注意のシフトであり,これまで一般的な(ヒトに共通の)認知処理現象であると考えられてきた.しかし,眼の形に類似した刺激を2つ横に並べて呈示した場合,刺激の空間上の位置ではなく,眼の中の虹彩に該当する刺激の向きによって,注意のシフトが生じることが最近明らかになった。さらに,申請者らの研究によって,この視線刺激のサイモン効果には,一定の個人差があることも示された.本研究は,この視線サイモン効果の個人差に対応した脳機能の働きを fNIRS による皮質活動の測定によって明らかにすることを目的としている. H30年度は,E-Sモデルにもとづく認知スタイル(胎生期の生化学的環境条件による脳神経系の差異に由来する認知処理パターンの個人差)を指標とし実験参加者を分類し,視線サイモン課題遂行時の脳皮質活動を血流を記録し,その計測データによって、社会的認知能力の個人差と脳の機能的な特徴の主要な対応関係を検討した。具体的には,3つの種類のEye-gaze Simon task 刺激(正円,楕円,眼の写真)による反応時間を指標としたサイモン効果の大きさと,課題処理時の皮質血流活動との対応関係について fNIRS を使用して脳皮質活動測定を行い検討した。その結果,E-type群では,左右両側頭葉の血流量が,前頭前野の血流量よりも統計的に有意に多かった。一方,S-type群では,反対に前頭前野の血流量が両側頭葉の血流量より統計的に有意に多かった。この結果は,社会的認知能力の個人差が視線サイモン刺激を処理する脳領野の違いと対応しており,認知スタイルの違いが,脳神経レベルでの情報処理(機能)の違いに反映していることを示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
社会的認知処理遂行時の脳皮質血流の測定結果に基づき,刺激の呈示条件との対応関係から実験参加者の脳の活動部位を特定しているが,平成30年度には,この対応関係について,反応時間と脳皮質血流におけるoxy-Hbの関係を中心に解析を行い,主として脳領野の活動状態の違いと認知スタイルの個人差に一定の対応関係の存在があることが認められた。これは,概要としては,視線のような社会的な刺激に敏感な個人は,視線サイモン刺激を「情動的」な情報として処理しているのに対し,社会的刺激よりも物的(非社会的)刺激に敏感な個人は,視線サイモン刺激を「非情動的」な情報として処理しているということを示している.この結果は,当研究の基本仮説を支持するものであり,かつこれまで報告されていない新しい結果である. このように,当研究の進行は,ほぼ順調であり,データの収集を含めた実験などの遂行に関する限り,現時点では当初の研究計画とほぼ対応していることから,全体的にはおおむね順調に進展していると考えられる。問題点としては,予算上の制約上から,fNIRS 測定装置をレンタルしているため,実験のための使用期間が限られているおり,機器を使用することができる期間内に実験参加者を集め,無駄なく効率的に測定・実験を進める必要があるという点で,今後改善・変更の余地があると考えている.しかし,現時点では,具体的な改善策はみつかっていないため,実験課題の見直しによる実験時間の短縮化,実験参加者募集の効率化を進める必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は,まず社会的認知能力を測定する検査課題(Cognitive Ability Test: CAT)を500名程度の被験者群に実施し,パフォーマンス検査の結果をもとに,社会的認知能力の高い群と低い群を各50名程度選抜する.また,Empathy-Quotient/Systemizing- Quotient の結果をもとに,認知スタイルが E-type と S-type の実験参加者を各50名程度抽出する.これらの選抜された対象について,実験への参加を求め,PCによる視線サイモン課題を実施する.そして,課題遂行中の脳皮質活動を,fNIRS-52ch により,血中の酸素消費量を指標として測定・記録する. 視線サイモン課題の刺激としては,刺激自体の社会的要因を条件とし,3つの水準(幾何学的図形による抽象的視線,両眼様の図形による具象的視線,写真によるリアルな視線)を用いることによって,視線サイモン効果全体としての個人差による社会的認知能力との関係を検討するだけではなく,刺激条件による差異も分析時の条件に加えることで,視線刺激への感受性と社会性(視線のリアルさ)による効果の相互作用から,より詳細な社会的認知過程に係わる個人差を検討することを試みる. さらに,これまでに得られた研究結果から,社会的認知能力の水準と,情報処理の指向性を反映した認知スタイルは,完全に対応するわけではないことが明らかになっているので,この両者の関係についても,fNIRSの測定結果を参考に,脳の活動部位の個人差を手がかりとして検討する予定である.
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