大学生211名の社会的認知(ToM)能力における個人差を測定し,その結果にもとづきToM能力高群と低群,男女各10名を抽出した上で,各群の Eye gaze Simon 課題処理中のパフォーマンスと脳皮質活動をfNIRSで記録した。そして,Eye gaze Simon 課題の成績と皮質血流状態の変化の関連性を比較・検討することで,社会的認知能力の個人差と神経生理学的過程との関連性について検討を行った。その結果,以下のような傾向が明らかにされた。 (1) ToM能力高群では,Eye gaze Simon 課題での目の写真刺激条件,Oval 刺激条件で,反応時間の遅延が生じ,社会的刺激に対して注意資源がより大きく使用される傾向があることが示された。ただし,正答率には低下は生じておらず,刺激の種類(視線への近似性)による正答率に違いはなかった。(2) ToM能力低群では,Eye gaze Simon 課題での刺激条件による差は小さく,視線および視線類似刺激と非視線刺激で,反応時間に差は認められず,視線類似刺激に対する注意の誘因は生じない傾向があった。(3) ToM能力高群では,Simon 課題中,視線および視線類似刺激(目の写真とOval 刺激条件)で,皮質側頭部に有意に血流量の増加が認められたが,前頭前野の血流には変動は確認されなかった。(4) ToM能力低群では,Simon 課題中,視線および視線類似刺激(目の写真とOval 刺激条件)で,皮質前頭前野部に有意に血流量の増加が認められたが,側頭部の血流には変化は確認されなかった。(5) ToM 能力の高低にかかわらず,男性では,Simon 課題中,すべての刺激条件で,皮質前頭前野部に有意に血流量の増加が認められたが,側頭部の血流には変化は確認されなかった。女性では,男性とは反対の傾向が認められた。
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