研究課題/領域番号 |
17K04310
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白岩 祐子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 講師 (40749636)
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研究分担者 |
唐沢 かおり 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (50249348)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 司法解剖 / 心の知覚 / 犯罪被害 / オートプシーイメージング / 遺族 / 非人間化 |
研究実績の概要 |
プロジェクト1)ご遺体を故人そのもののようにみなす日本人の心理メカニズムを心の知覚という観点から解明する:心の知覚理論の有用性をまず検討した初年度には、不慮の転落事故で亡くなった人物にこれから司法解剖が行われる、と告知することで、故人に対する心(痛みや悲しみなどを感じる力)の知覚が低減することが確認された。この結果は、「司法解剖」という言葉のもつ権威性が強く、本来きわめて個人的な経験である死が公的な次元に位置づけられることで、心の営みが変容しうることを示している。二年次にあたる本年度は、上記の傾向が頑健なものであることを確認した上で、成果を学術論文にまとめた。 プロジェクト2)司法解剖になどによる遺体の損壊が遺族にもたらす持続的な影響とその緩和要因を明らかにする:本年度は、実際に司法解剖を経験したご遺族に行った面接(初年次に実施)の内容を、心の知覚という枠組みを用いて検討し、学術論文としてまとめた。当該論文はオートプシー・イメージング学会の理事に取り上げられ、同学会ホームページ上で紹介されている。あわせて、過去の航空機事故や犯罪被害における司法解剖の実態を文献収集の上、質的に分析し、放射線科専門雑誌に寄稿した。 プロジェクト3)脳死などより複雑な社会問題への応用に資する「死をめぐる心の知覚モデル」の基盤を構築する:本年度は、死のポジティブ・バイアスという現象に着目し、死者が確かに美化されやすいこと、これにはある種の社会規範が関与していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロジェクト2(司法解剖などによるご遺体の損壊が遺族にもたらす持続的な影響とその緩和要因を明らかにする)は初年次に予定以上のペースで進行した流れが持続しており、当初目標にほぼ達している。しかし、プロジェクト1(ご遺体を故人そのもののようにみなす日本人の心理メカニズムを心の知覚という観点から解明する)に関しては、初年次に得られた結果の再現性を確認し、成果をまとめるにとどまっており、この点は並行するプロジェクト3(脳死など、より複雑な社会問題への応用に資する「死をめぐる心の知覚モデル」の基盤を構築する)の進行にも影響しうることから、これらの事情を総合的に勘案して「おおむね順調に進展している」との自己評価に至った。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、プロジェクト1における基礎的な検討を複数のシナリオ実験によって深め、遺体に対する愛着とその阻害要因を明らかにする。これに加えて、遺体に対する愛着と処遇が日本人に固有のものであるかを確認するため、手記などを題材とした国際比較調査を行う予定である。当初、この調査は本年度中に行う予定であったが、プロジェクト1で得られた結果が予想と異なるものであったことから、念のため追試を行った関係で最終年度にずれ込むこととなった。 最終年度はさらに、死後はどうなるのか、という問題に関する信念を構造的に把握する試みとして、千人を対象に行ったオンライン調査の分析に着手し、必要に応じて追試する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
二年次に当初予定していた国際比較調査を、三年次に実施することに予定変更したため。
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