研究実績の概要 |
本年度は、これまでに収集した大学新入生の社会的ネットワークに関する縦断データの分析を行った。エージェント・ベース・モデルによる分析の結果、所属欲求の高まりや実行機能の低下をもたらす孤独感が、社会的ネットワークの構造的変化を規定することが明らかとなった。この結果は、複数の集団において、デモグラフィック属性やパーソナリティといった個人レベルの要因と、授業の履修パターンといった集団レベルの要因を統制した上で得られており、その妥当性は高いと考えられる。ただし、測定時期によって異なるパターンが得られたため、今後は時期の効果を考慮に入れたモデルをベースに、より詳細な検討を行うことが必要である。また、新たにアメリカの中学生を対象とした社会的ネットワークの公開データセットの分析も進め、孤独感が社会的ネットワークを通じて拡散しうること、ただしそのパターンは高孤独者と低孤独者で異なることが明らかとなった(Igarashi, 2019, ASNAC)。これらの知見は、実行機能の低下と関連する孤独感が、コミュニティ所属の基礎となる社会的ネットワークの構造をダイナミックに規定する可能性を示すものである。さらに、オンラインでの相互作用実験の実施にあたって、オープンソースのパッケージを用いたプログラム開発も進め、動作の検証を行っている。研究成果としては、孤独感尺度短縮版の日本語版を開発した(Igarashi, 2019, BMC Psychology)。また、昨年度に行った実行機能とコミュニティ所属との関連について、アジア社会心理学会にて報告を行った(Igarashi et al., 2019, AASP)。
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