研究課題/領域番号 |
17K04317
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
沼崎 誠 首都大学東京, 人文科学研究科, 教授 (10228273)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 社会系心理学 / 行動の自動性 / 進化心理学 / プライミング効果 |
研究実績の概要 |
2019年度では,A.配偶者獲得動機の顕現化が危険関連認知や行動に及ぼす効果のWeb実験,B.自己防衛動機の顕現化が危険関連認知や行動に及ぼす効果,C.環境悪化情報が妬み感情に及ぼす効果について検討を行った. Aに関しては,2017年度の実験室実験の直接的再現実験である2018年度に行ったWeb実験の参加者を追加し,実験室実験との相違についてあらためて検討した.2017年度の実験室における小集団実験とは異なり,Web実験においては,効果が非常に弱いという結果が得られた.さらに,20歳~35歳までの男女一般サンプルで,大学生に対して実施したWeb実験の直接的再現実験を行った.このデータについては現在分析中である.さらに,配偶者獲得動機と密接に関連する,外見を意識させるプライミングを行い,ジェンダーに関わる自己ステレオタイプ化と偏見に及ぼす効果を検討した,女性参加者においてはジェンダーに関わる自己ステレオタイプ化が生じ,慈愛的偏見が高まることが示された. Bに関しては,2018年度に行ったStudy 2(攻撃的外集団成員をプライムして攻撃/防衛行動に及ぼす効果を検討した実験室実験)を,参加者を増やして実施した.その結果,攻撃的外集団成員の閾上プライムは,身体的能力の高い参加者には攻撃行動を,身体的能力の低い参加者には防衛行動を引き起こすことが見いだされた. Cに関しては,環境悪化情報が妬み感情に及ぼす効果を検討するため,不況をプライムして場面想定法で関係性(高低)も操作して,従属変数として悪性妬みと良性妬みを測定した.結果として,通常妬みが生じづらい関係性が低い場合でも,経済不況をプライムすると悪性妬みが生じることが示された. これらの結果は,状況プライミングが行動に影響を及ぼしうることを示唆する一方で,プライミングの効果が実験室実験とWeb実験とで異なる可能性を示唆するものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度に十分な参加者を集めることができなかった実験(Aの大学生のWeb実験,Bの攻撃的外集団プライム実験)にデータを加えることにより,信頼性の高い結果を得ることができた. 「配偶者獲得動機の顕現化が危険関連認知や行動に及ぼす効果」に関する一般サンプルを用いたWeb実験では,実施およびデータの分析において問題が生じ,データ自体は十分な数が集まっているものの,まだ十分な分析ができていない.その一方で,外見を意識させるプライミング効果が,ジェンダーに関わる自己概念の変容に影響を及ぼし,ジェンダーに関わる偏見を高めるという新たな知見が得られた.この実験では行動に及ぼす効果までは検討していないが,プライミングと行動を結ぶ媒介過程(自己概念の変容)を検討するための手がかりが得られた. 上記の点を考えると,概ね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度までに実施した,「配偶者獲得動機の顕現化が危険関連認知や行動に及ぼす効果」についての実験室実験(大学生)・集団実験(大学生)・Web実験(大学生)・Web実験(一般サンプル)のデータをまとめて分析をする.従属変数を単に分析をするだけでなく,反応傾向や測定された個人差などがどのように異なってくるのかを精細に分析する.このことによって,環境プライムの行動に及ぼす効果の実験方法による違いは,どのような要因によるものなのかを明らかにする.この分析で明らかとなった要因を念頭においた,直接比較可能な実験室実験・Web実験を再度行い,環境プライムが行動に及ぼす効果を調整する要因を明らかにしていく.外見を意識させるプライミングの効果に関する研究では,行動を測定することによって,2020年度で得られた自己概念の変容が媒介をしているかどうかを検討する実験も実施したい. 2020年度は最終年度であるため,プライミング効果についての総合モデルを検討するとともに,実験室での個別実験と集団実験とWeb実験の違いについて理論的検討を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に業者に委託して実施したWeb実験の請求が,2020年度にづれ込んだため,残金が生じた.この支払を考慮するとほぼ計画通り使用している.
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