高齢者の社会関係の豊かさが主観的well-being(SWB)と関連することは多くの研究で指摘されているが、多様な関係性の交互作用については十分な研究が少ない。本研究では、従来の活動理論では明確にしきれなかった社会関係の交絡要因がSWBへ与える影響を考慮するために、自己複雑性因果モデル(「1.ポジティブ自己複雑性の高い高齢者は、役割に関するネガティブな事象が及ぼす役割アイデンティティへの負の影響が小さいため、SWBは高く維持される」、「2.ネガティブ自己複雑性の高い人は、役割に対するネガティブな事象が及ぼす役割アイデンティティへの負の影響が促進される」を設定し、実証を試みた(研究Ⅰ)。その際、自己複雑性を捉える指標「H」に疑義が生じたため、当初の予定を変更し、「SC」について算出することで、解決を試みた。また、因果関係に対するより強い根拠を得るために縦断的な調査を実施した。分析の結果、自己複雑性の指標「H」「SC」共に、SWBの一部の側面と正の関連を示し、自己複雑性因果モデルは部分的に実証された。 一方、当初の研究計画では研究Ⅱとして実施予定であった前向き調査やP-SCを向上させる介入プログラムの開発については、指標「H」への疑義により開始が遅れたことも影響し、新型コロナウィルスの蔓延と研究実施時期が重なってしまった。研究Ⅱは、地域在住の高齢者の協力を必要とする研究であったため、研究期間内で協力を得ることが難しかったことから、断念した。
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