研究課題/領域番号 |
17K04321
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
清成 透子 青山学院大学, 社会情報学部, 准教授 (60555176)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 協力 / 評判 / 罰 / 報酬 / 間接互恵 |
研究実績の概要 |
21世紀に入り、人間の利他性・協力性を説明する新たな理論展開が、経済学を中心とする社会科学と、数理進化学を中心とする生物学の双方で急速な進展を見せ、利他性・協力性を支える社会的基盤としての「罰システム」と「間接互恵システム」に注目が集まっている。しかし、これら2つに関する理論はこれまで独立に展開しており、両者を統合する動きは未だ萌芽の段階にある。 本研究の目的は、罰と間接互恵のそれぞれを支える心理機序に着目し、それらが有効に機能するための社会基盤を1)結束型・架橋型社会関係資本、及び、2)ポジティブ・ネガティブ評判の組み合わせとして理解することにより、人間の利他性・協力性に関する2つの理論を統合する枠組みを構築し、その枠組みの有効性を一連の実験を通して示すことにある。 そのため、本研究では、架橋型社会においてはポジティブ・サンクション(報奨)が評判による関係拡張の促進に付随してより有効に機能するのに対して、結束型社会においてはネガティブ・サンクション(罰)が規範逸脱者の排除を通して有効に機能することを実験で検討し、それぞれが異なる形で協力の維持を支えるメカニズムとなり得ることを明らかにする予定である。そのため、二者関係から複数人が相互作用する状況へと拡張する過程でどのようなダイナミズムが生じうるかをみていく。研究の初期段階としては小規模集団を用いて一連の実験を開始すると同時に、より規模の大きい集団における実験へと拡張していく予定である。また、人々が他者をどのように評価するのか、社会関係を操作した上でポジティブな評価とネガティブな評価の起きるメカニズムも同時に検討する。それらを通して、向社会的な行動の生起・維持および、それらが間接互恵へとつながるプロセスを明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度は、実験室内で二者関係から複数人での相互作用への拡張を検討するための実験準備を行った。まず、小規模集団内で二者関係を複数成立させ、その後、集団全体における相互作用を行うためのネットワーク相互作用実験システムの構築を行った。具体的には4名~6名集団で相手をランダムに替えながらペア間の相互作用を繰り返し行い、最後に集団での意思決定を繰り返す実験パラダイムの開発を行った。ネットワーク型相互作用をPC間の通信で実行するためにVBによるプログラム開発を行った。通信テストを繰り返し行う必要があり、通信エラーを排除する目的のため、H29年度はプレテストを中心にプログラムテストを繰り返し実施するのに加えて、実験デザインの改良も併せて行った。これまでのところ複数の実験条件下における他者評判形成を検討するためのデザインの精緻化を進めることができた。H30年度には新しく開発したプログラムを用いて精緻化したデザインにて本実験を実施する予定である。 また、ネットワーク相互作用実験用のプログラムを開発している間は、スタンドアローン形式で行える実験を平行して実施することで、他者の行為に対する評判の付け方、および、罰と報奨の与え方に関する検討を行うことが可能となった。具体的には、PC画面に複数の登場人物が宝物を探す場面を映像で呈示し、誰が宝物を発見したか(貢献者)、その貢献を横取りした場合としなかった場合など、複数の場面条件において、それぞれ登場人物に罰や報奨をどう配分するか選ばせる実験を実施した。また、実験参加者の視線を非装着型のアイカメラにて計測し、他者を評価する際にどのような情報に注意を配分した上で、意思決定を行うかに関する検討も行った。現在、データを解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度には、H29年度に開発したネットワーク実験システムを用いて、小規模集団における社会関係形成を検討する本実験を行う予定である。具体的には4名~6名が一度に参加し、いくつかの二者経済ゲームをペアの相手を変更しながら繰り返し行い、集団内でのある種の社会規範を成立させる。その後、集団全体における相互作用において、先行する経験が如何なる影響を及ぼし、どのようなタイプの社会関係を構築するか、他者評価も併せて検討する予定である。また、昨年から引き続き、社会的意思決定の際に他者のどのような情報に人々は着目し、評判形成への一助となるのかを検討するために、視線を計測する研究も行う予定である。これまで収集が完了したいくつかのデータについては論文の執筆を行う。併せて、ネットワーク型相互作用実験のプログラムが何らかの通信トラブルによって正常に機能しない事態に備えて、実際の相互作用を想定させた実験をバックアップとして実施する準備も併せて行う予定である。さらに、罰行使者に対する情動的反応についての国際比較研究の準備も海外の研究者と共同で実施を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29年度はネットワーク相互作用実験用のプログラム開発を中心に進めたが、プログラム上のトラブル等で本実験ではなくプレテストを繰り返すことになり、本実験で予定していた実験謝金等を次年度以降に持ち越すこととなった。ただし、そのことによって計画全体が遅延したのではなく、デザインの精緻化、および、プレテストデータの収集に加えて、相互作用のない実験実施を通して、理論の検討は順調に進んでいる。H30年度については予定通り実験が実施可能であるため、使用計画としても問題は発生しない。
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