本研究は、従来、文化心理学の分野から文化差の存在が指摘されていながら、十分な実証的な検討がなされていなかった帰属過程や社会的認知関連の現象について、新たなデータ収集を実施し、文化差の有無とその背景についての理論的考察を行うことを目的とした。 最終年度の2022年度には、対応バイアスと呼ばれる、帰属過程で最も注目される現象について、日米の成人を対象としたオンライン実験を2回行った。対応バイアスとは、行為者に選択の自由がない状況で行われた行動からも、本人の態度が推測されてしまう傾向であり、文化心理学の初期の文献では、アジア文化圏では見られないという主張もあったが、日本人対象の実験でも繰り返し見出されている極めて強力なバイアスである。本研究では、このバイアスが日本人でも明確な形で生じることを再度確認した上で、態度の推測に先立って因果的な思考を促すことにより、このバイアスが消失するという仮説の検証を行った。この仮説は、日本人大学生を対象にした質問紙実験で既に検証されているが、今回は日米の一般成人を参加者としてオンライン実験を行った。その結果、第1実験においては、日米どちらのサンプルでも、通常の実験条件では対応バイアスが明確に認められ、因果的な思考を先行させるとバイアスが消えるという仮説が支持され、基本的な認知過程に文化差は認められなかった。文化差にあたるものは、一般に大学生がどのような人間観をもっているかの推測、および参加者自身の信念の違いのみに見られた。 研究期間を通じて、自己記述や原因帰属など、文化差の存在が指摘されてきた現象の中には、データ収集の方法などに起因するアーティファクトも含まれること、基礎的な認知過程そのものには文化差が少なく、一般常識や社会通念には文化の影響が大きいことが明らかになった。この成果については今後もさらに検討し、研究発表を行う予定である。
|