研究課題/領域番号 |
17K04329
|
研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
上瀬 由美子 立正大学, 心理学部, 教授 (20256473)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ステレオタイプ / 偏見 / 社会的・制度的支持 / 社会的包摂 / 刑務所 / 可視化 |
研究実績の概要 |
本研究では、ステレオタイプ・偏見研究において効果的接触の成立条件とされる「社会的・制度的支持」の一形態として「可視化した社会システム」を位置付け、被スティグマ化された人々の社会的包摂を目指す社会的アプローチとしての有効性を検証することを目的としている。初年度は日本の官民協働刑務所を「可視化した社会システム」の具体例としと注目し、官主導の形で近年新たに兵庫県に開設された官民協働刑務所「播磨社会復帰促進センター」の近隣住民への施設に対する意識調査を実施した。当該施設近隣の8地区において、自治会長を通じて自治会に所属する全世帯に、世帯主および配偶者用の調査票を配布し郵送法で回収した (配偶者のいない世帯は白票の返送を求めた)。配布数は合計1500世帯、回収は938票(回収率29%)であった。回答に不備があったものやセンターで働く公務員であったものを除き、計843票を分析対象とした。その結果、回答者の中での播磨社会復帰促進センターの認知度はおよそ7割にとどまり、さらにその中で施設を「刑務所である」と認知していたものは8割以下と、他の官民協働刑務所近隣住民調査の結果と比較して低いことが明らかとなった。開設後の抵抗感については、他施設と同様に大きく低減していた(開設前の4割から開設後の1割)。初年度の結果から、官民協働刑務所が社会的包摂促進に果たす役割が改めて確認されるとともに、施設の固有性も示唆された。例えば「矯正展」など直接的接触は他地域と同程度であったが、「新聞・テレビ・雑誌」「住民向けの広報」など間接的接触は2割程度にとどまっていた。従前の官民協働刑務所近隣住民調査の結果と比較分析を行った結果、施設開設の経緯(誘致か非誘致か)が事前説明のあり方に影響を与え、これが「社会的・制度的支持」の明確化を左右し、開設後の接触と出所者に対する受容的態度に影響するプロセスが確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の実施計画において、初年度に官民協働刑務所近隣住民に意識調査を行い分析を行うことを予定していた。計画通り、初年度に播磨社会復帰促進センターのある加古川市住民に意識調査を完了することができ、結果についても学会発表および論文化に至っている。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の計画通りアクションリサーチが完了したため、今後は得られた数量的データを精緻に分析し、従前のデータも含めて、「社会的・制度的支持」「接触」「ステレオタイプ・偏見低減」の関連性に関するモデルを再構成することを目指す。さらに従前の結果をまとめて論文化を試みる。 さらに、「社会的・制度的支持」と「接触」の関係を明らかにするためには、官民協働刑務所の可視化事例の特徴よりもさらに進んだ事例について分析することが有効と考えられる。国内の事例ではこれは難しいが、海外にも対象を広げれば検討可能である。例えばカナダでは、人権尊重を社会政策として強く打ち出している(社会的・制度的支持の明確化)。当地の矯正施設のあり方と日本の官民協働施設のあり方を比較することで「社会的・制度的支持」「接触」「ステレオタイプ・偏見低減」の関連をさらに詳細に検討できるものと考える。以上をふまえ今後の研究の推進の方向として、カナダの実際の矯正施設への見学、関連する人々への面談を行い、ステレオタイプや偏見の低減のための、社会的・制度的支持のあり方と接触の関係、社会的包摂への効果ついて明らかにしたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた住民調査については実施が完了し、残りの期間で、可視化した社会システムの影響過程を精緻に分析を行う計画である。ただし、現状の分析にとどまらず、最終的にはどのような可視化が社会的包摂により効果的なのかを提案することが必要と考えられる。 研究代表者は次年度、本務校において海外研修期間となり、1年間カナダに滞在することとなった。当地では、1980年代後半より先進的な形で多文化主義を政策の柱とし、社会的包摂を可視化することを重視して様々な取り組みを行っている。矯正施設においても、これまで本研究が取り上げた日本の官民協働刑務所よりも、より先進的な形で出所者の社会的包摂や地域との連携を行なっている。このためカナダの地において施設の現状を調べ、関係者への面接を通して、可視化した社会システムと社会的包摂との関連の効果的な形を明らかにすることができると考える。このため、カナダ国内で調査を行う際の出張費・滞在費および関連の資料収集を次年度予算として計上する。
|